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閉戸閑詠
へいこかんえい
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「河上肇全集 21」 岩波書店
1984(昭和59)年2月24日
初出「河上肇著作集第11巻」筑摩書房、1965(昭和40)年
入力者はまなかひとし
校正者林幸雄
公開 / 更新2008-10-08 / 2014-09-21
長さの目安約 56 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

       閉戸閑詠 第一集 起丁丑七月 尽辛巳十月
[#改ページ]

  〔昭和十二年(一九三七)〕


野翁憐稚孫
余この歳六月十五日初めて小菅刑務所より放たる
膝にだく孫の寝顔に見入りつつ庭の葉陰に呼吸ついてをり
七月七日

花田比露思氏の来訪を受く
有りがたや七年ぶりに相見ればふるさとに似し君のおもかげ
七月七日

獄をいでて 三首
獄をいでて街を歩きつ夏の夜の行きかふ人を美しと見し
獄をいでて侘居しをれば訪ねくる人のこゝろはさまざまなりき
ありがたや静かなるゆふべ簡素なる食卓の前に妻子居ならぶ
七月二十日

谷川温泉雑詠 録七首
疲れたる身を深渓に横たへて山隈に残る夏の雪見る
河鹿鳴くと人は云へれど耳老いてせせらぐ水にわれは聞えず
世の塵もこの渓まではよも来まじ窓を披きて峰の月見る
奥山にとめ来し友と語らひて若さ羨む後のさびしさ(宮川実君の来訪を受く)
今は早や為すこともなき身なれども生きながらへて世をば見果てむ
山深きいでゆにひたりいたづらに為すよしもなき身をばいたはる
何事もなさで過ぎねと人は云へ為すこともなくて生きむ術なき
七月末より八月初まで

大塚金之助氏の不幸を悼みて
秋のゆふべたらちねの母のみひつぎ送りゆく君を思へばいたまし
十月二十二日

玉山洗竹詩和訳
原作 世上風塵事何嘗至此間欲窮飛鳥処
洗竹出前山
世の塵もこのほとりへはよも来まじ居向ふ山に飛ぶ鳥の跡を見ばやと竹をすかしぬ
十一月二十六日

閑居 二首
陽を負ひて障子張りつつ歌思ふ閑居の昼のこののどけさよ
晴れし日を南の縁に孫だきて陽を浴びをれば飛行機通る
十二月十一日

獄中の思出
茶も飲めず話も出来ず暮れてゆく牢屋の冬はさびしかりしも
十二月十一日

郷里より柚味噌来たる
手製りて母のたまひしものなればこの柚味噌は拝みてたうぶ
手製りて送りたまひし柚味噌の焼くる匂ひに今朝もほゝゑむ
十二月二十一日

荻窪天沼の寓居は北裏に広々としたる田畑あり、出獄後の身にとりては、郊外の散歩殊に楽しかりき
一杯に陽を浴びし裏の畑道こゝろのまゝに行きては戻る
行き行けば疲れし頃に小橋あり腰をおろして煙草のむべく
畑中の小溝の水は澄みわたりゆらぐ藻草の美しきかな
つぎ/\に拓かれてゆく郊外に取り残されし稲荷のやしろ
畑中の小高き丘の松蔭の洋館のあるじ誰ならむ
藁葺にまじりて白堊の家もあり赤き屋根あり青き屋根あり
十二月二十二日

歳暮 二首
老妻を喜ばさんと欲りすれど金もはいらで歳はくれゆく
白粥に柚味噌添へて食べたり奥歯のいたむ霜寒の朝
十二月二十七日
[#改段]

  〔昭和十三年(一九三八)〕

刑余安逸を貪る
   一
膝を伸ばせば足が出る、
首を伸ばせば枕が落ちる、
覗き穴から風はヒュー/\。
ほんたうに冬の夜の
牢屋のベッドはつらかつた。
   二
今は毛布の中にくるまり、
真綿…

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