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南蛮秘話森右近丸
なんばんひわもりうこんまる
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「国枝史郎伝奇全集 巻三」 未知谷
1993(平成5)年3月20日
初出「少女倶楽部」1927(昭和2)年4月~10月
入力者阿和泉拓
校正者湯地光弘
公開 / 更新2005-04-05 / 2014-09-18
長さの目安約 115 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



「将軍義輝が弑された。三好長慶が殺された、松永弾正も殺された。今は下克上の世の中だ。信長が義昭を将軍に立てた。しかし間もなく追って了った。その信長も弑されるだろう。恐ろしい下克上の世の中だ……明智光秀には反骨がある。羽柴秀吉は猿智慧に過ぎない。柴田勝家は思量に乏しい。世は容易に治まるまい……武田家は間もなく亡びるだろう。波多野秀治は滅亡した。尼子勝久は自刃した。上杉景勝は兄を追った。荒木村重は謀反した。法燈暗く石山城、本願寺も勢力を失うだろう。一向一揆も潰されるだろう、天台の座主比叡山も、粉砕されるに相違ない。世は乱れる。世は乱れる! だが先ずそれも仕方がない、日本国内での争いだ。やがて、誰かが治めるだろう、恐ろしいのは外国だ! 恐ろしいのは異教徒だ! 憎むべきは吉利支丹だ! ザビエル、ガゴー、フロエー、オルガンチノこれら切支丹の伴天連共、教法に藉口し耳目を眩し、人心を誘い邪法を用い、日本の国を覬覦している。唐寺が建った、南蛮寺が建った、それを許したのは信長だ! なぜ許したのだ! なぜ許したのだ! 危険だ、危険だ、非常に危険だ! 国威が落ちる、取り潰すがよい! 日本には日本の宗教がある、かんながらの道、神道だ! それを讃えろ、それを拝め!」
 ここは京都二条通、辻に佇んだ一人の女、凜々として説いている。年の頃は二十歳ぐらい、その姿は巫女、胸に円鏡をかけている。頭髪を束ねて背中に垂らし、手に白綿を持っている。その容貌の美しさ、洵に類稀である。眉長く顳[#挿絵]まで続き、澄み切った眼は凄いまでに輝き、しかも犯しがたい威厳がある。その眼は時々微笑する。嬰児のような愛らしさがある。高すぎる程高い鼻。男のそれのように、肉太である。口やや大きく唇薄く、そこから綻びる歯の白さ、象牙のような光がある。秀た額、角度立った頤、頬骨低く耳厚く、頸足長く肩丸く、身長の高さ五尺七八寸、囲繞いた群集に抽出ている。垢付かぬ肌の清らかさは、手にも足にも充分現われ、神々しくさえ思われる。男性の体格に女性の美、それを加えた風采である。
 だが何という大胆なんだろう! 夕暮時とは云うものの、織田信長の管理している、京都の町の辻に立ち、その信長を攻撃し、その治世を詈るとは!
 驚いているのは群集である。
 市女笠の女、指抜の若者、武士、町人、公卿の子息、二十人近くも囲繞いていたが、いずれも茫然と口をあけ、息を詰めて聞き澄ましている。反対をする者もない、同意を表する者もない。
 不思議な巫女の放胆な言葉に、気を奪われているのである。
「唐寺の謎こそ奇怪である」巫女はまたもや云い出した。
「唐寺の謎を解くものはないか! 唸っているのだ、恐ろしいものが! 日本の国は買われるだろう、日本の国は属国となろう。解くものはないか、南蛮寺の謎! いや恐らくあるだろう、解くがいい解くがいい! 幸福が来る、解い…

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