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岷山の隠士
みんざんのいんし
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「国枝史郎伝奇全集 巻六」 未知谷
1993(平成5)年9月30日
初出「大衆文芸」1926(大正15)年4月
入力者阿和泉拓
校正者小林繁雄、門田裕志
公開 / 更新2005-10-13 / 2014-09-18
長さの目安約 20 ページ(500字/頁で計算)
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本文より


「いや彼は隴西の産だ」
「いや彼は蜀の産だ」
「とんでもないことで、巴西の産だよ」
「冗談を云うな山東の産を」
「李広[#「李広」は底本では「季広」]の後裔だということだね」
「涼武昭王[#挿絵]の末だよ」
 ――青蓮居士謫仙人、李太白の素性なるものは、はっきり解っていないらしい。
 金持が死ぬと相続問題が起こり、偉人が死ぬと素性争いが起こる。
 偉人や金持になることも、ちょっとどうも考えものらしい。

 李白十歳の初秋であった。県令の下に小奴となった。
 ある日牛を追って堂前を通った。
 県令の夫人が欄干に倚り、四方の景色を眺めていた。
 穢らしい子供が、穢らしい牛を、臆面もなく追って行くのが、彼女の審美性を傷付けたらしい。
「無作法ではないか、外をお廻り」
 すると李白は声に応じて賦した。
「素面欄鉤ニ倚リ、嬌声外頭ニ出ヅ、若シ是織女ニ非ズンバ、何ゾ必シモ牽牛ヲ問ハン」
 これに驚いたのは夫人でなくて、その良人の県令であった。
 早速引き上げて小姓とした。そうして硯席に侍らせた。
 ある夜素晴らしい山火事があった。
「野火山ヲ焼クノ後、人帰レドモ火帰ラズ」
 県令は苦心してここまで作った。後を附けることが出来なかった。
「おい、お前附けてみろ」
 県令は李白へこう云った。
 十歳の李白は声に応じて云った。
「焔ハ紅日ニ隨ツテ遠ク、煙ハ暮雲ヲ逐ツテ飛ブ」
 県令は苦々しい顔をした。それは自分よりも旨いからであった。
 五歳にして六甲を誦し、八歳にして詩書に通じ、百家を観たという寧馨児であった。田舎役人の県知事などが、李白に敵うべき道理がなかった。
 ある日美人の溺死人があった。
 で、県令は苦吟した。
「二八誰ガ家ノ女、飄トシテ来リ岸蘆ニ倚ル、鳥ハ眉上ノ翆ヲ窺ヒ、魚ハ口傍ノ朱ヲ弄ス」
 すると李白が後を継いだ。
「緑髪ハ波ニ隨ツテ散リ、紅顔ハ浪ヲ逐ツテ無シ、何ニ因ツテ伍相ニ逢フ、応ニ是秋胡ヲ想フベシ」
 また県令は厭な顔をした。
 で李白は危険を感じ、事を設けて仕を辞した。
 詩的小人というものは、俗物よりも嫉妬深いもので、それが嵩ずると偉いことをする。
 李白の逃げたのは利口であった。
 剣を好み諸侯を干して奇書を読み賦を作る。――十五歳迄の彼の生活は、まずザッとこんなものであった。
 年二十性[#挿絵]儻、縦横の術を喜び任侠を事とす。――これがその時代の彼であった。
 財を軽んじ施を重んじ、産業を事とせず豪嘯す。――こんなようにも記されてある。
 ある日喧嘩をして数人を切った。
 土地にいることが出来なかった。
 このころ東巖子という仙人が、岷山の南に隠棲していた。
 で、李白はそこへ走った。
 聖フランシスは野禽を相手に、説教をしたということであるが、東巖子も小鳥に説教した。彼は道教の道士であった。
 彼が山中を彷徨っていると、数百の小鳥が集まっ…

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