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枕上浮雲
ちんじょうふうん
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「河上肇全集 21」 岩波書店
1984(昭和59)年2月24日
初出「河上肇著作集第11巻」筑摩書房、1965(昭和40)年
入力者はまなかひとし
校正者林幸雄
公開 / 更新2008-10-08 / 2014-09-21
長さの目安約 20 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

暖くなりしためか、静養の結果か、営養の補給十分なりしためか、痩せゐることは変りなきも、この数日総体に体力のやや恢復せるを覚ゆ。室内の歩行に杖を用ひず、階上への上り下りにも、さまで脚のだるきを感ぜず。別冊「歌日記」、余白なくなりたるを機会に、今日より新たなる冊子に詩歌を書きゆき、題名も新たに「枕上浮雲」となす
葉がくれの青梅ひびに目立ちつつやまひおこたるきざし見えそむ
人の書きし米国地理を見てあれば行きて住みたき心地こそすれ
尋めゆきて死所と定めむ天竜の峡ちかき村清水湧くところ(原君、飯田市より二三里を距てたる山本村の清水に疎開し来れと誘はるるにより、かかる夢あり)
以上五月十三日

痩せ衰へつつも尚ほ生き続くらしければ
我ながら驚くばかり痩せし身もなほ生きてあり生くる道あり
かくばかり衰へて尚ほいのちあり不思議なるかないのちてふもの
五月十四日

数十日目に頭髪を刈り、帰りてよめる
理髪屋にゆきてかへりていねをれば夕方まけて熱高まりぬ
脈多く熱高けれど負けもせずねどこ這ひでていひをはみけり
若くしていためし胃腸何事ぞ六十路をすぎていよよすこやか
藪蚊いで顔さすころを今も尚ほゆたんぽ入れてわれいねてをり
以上五月十四日

生来蟄居を好み旅を楽まむとする心の甚だ乏しかりし余も、六十七歳となれる今年、一月より病臥すること半ヶ年になんなんとするに及び、もはや此の世に分かるるも遠からじと思ふに至れるものか、旅に出でむとする心次第に萌して、漸く抑えがたきを覚ゆ
いづこにて死なむもよしとあきらめて行末定めぬ旅に立たばや
やうやうに杖つきえなば旅に立ち山をも見なむ海をも見なむ
金もうせ力もうせし今となり旅に遊ばむこころ湧き出づ
五月十九日
行く春をひねもすふしどにうちふして千里風月の旅をし夢む
五月二十一日

生死は自然に任せむ
余一時衰弱日に加はり、この勢にて進まば最早や再起難かるべきかと思ひし時期あり。当時ひそかに思へらく、再起到底望みなき身なれば、食糧の欠乏極度に達せる今日、食ふこと一日多ければ人の糧を減ずることまた一日、しかも彼我共に利する所なし、如かず意を決して自ら断食せんには、希くば一日妻子を招いて留別送別の食事を共にし、その際今生の思ひ出に汁粉なりとも存分に食ひ、それを機会に死を迎ふる用意を為さんと。かく思ひまどひつつ、未だ決するに至らざるうち、遂に此の小詩を作るに至る

年五十九
老衰のため山を下り
年六十九
衰弱愈[#挿絵]加はりて
木村元右衛門が家の裏庭の小舎に
移り住みし後の良寛上人も
生死はただ自然に任せたまひけむ
遂に七十三まで
生き延びたまひし由を知り
ひそかに心を安んじぬ
今年われ六十八
老衰頓に加はりて
早くも事に耐へず
人を煩はすのみの身となりぬれど
さもあらばあれ
希くはわれもまた上人にならひ
生死を自然に任せつつ
超ゆべくんば古稀の阪を…

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