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奈々子
ななこ
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「左千夫全集 第三卷」 岩波書店
1977(昭和52)年2月10日
初出「ホトヽギス 第十二卷第十二號」1909(明治42)年9月1日
入力者米田進
校正者松永正敏
公開 / 更新2002-04-01 / 2014-11-25
長さの目安約 19 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 其日の朝であつた、自分は少し常より寢過して目を覺すと、子供達の寢床は皆殼になつてゐた。自分が嗽に立つて臺所へ出た時、奈々子は姉なるものゝ大人下駄を穿いて、外とへ出ようとする處であつた。凉爐の火に煙草を喫つてゐて、自分と等しく奈々子の後姿を見送つた妻は、
『奈々ちやんはねあなた、昨日から覺えてわたい、わたいつて云ひますよ。
『さうか、うむ。
 答へた自分も妻も同じやうに、愛の笑が自から顏に動いた。
 出口の腰障子につかまつて、敷居を足越さうとした奈々子も、振返りさまに兩親を見てにつこり笑つた。自分は其儘外へ出る。物置の前では十五になる梅子が、今[#挿絵]箱から雛を出して追込に入れてゐる。雪子もお兒も如何にも面白さうに笑ひながら[#挿絵]を見て居る。
 奈々子もそれを見に降りて來たのだ。
 井戸端の流し場に手水を濟した自分も、[#挿絵]に興がる子供達の聲に引かされて、覺えず彼等の後ろに立つた。先に父を見つけたお兒は、
『おんちやんにおんぼしんだ、おんちやんにおんぼしんだ。
と叫んで父の膝に取りついた。奈々子もあとから、
『わたえもおんも、わたえもおんも。
と同じく父に取りつくのであつた。自分はいつもの如くに、おんぼといふ姉とおんもといふ妹とを一所に背負うて、暫く彼等を笑はせた。梅子が餌を持出してきて雛にやるので再び四人の子供は追込みの前に立つた。お兒が、
『おんちやんおやとり、おんちやんおやとり。
といふから、お兒ちやん、おやとりがどうしたかと聞くと、お兒ちやんは、おやとりつち詞を此頃覺えたからさういふのだと梅子が答へる。奈々子は大きい下駄に疲れたらしく、
『お兒ちやんのかんこ、お兒ちやんのかんこ。
と云ひ出した。お兒の下駄を借りたいと云ふのである。父は幼き姉を賺かして其下駄を借さした。お兒は一つ上の姉でも姉は姉らしいところがある。小さな姉妹は下駄を取替へる、奈々子は滿足の色を笑に湛はして、雪子とお兒の間に挾まりつゝ雛を見る。つぶ/\綛の單物に桃色の彦帶を後に垂れ、小さな膝を折つて其兩膝に罪のない手を乘せて蹲踞んで居る。雪子もお兒もながら、一番小さい奈々子の風が殊に親の目を引くのである。虱が湧いたとかで、頭をくり/\とバリガンで刈つて終うた、頭つきがいたづらさうに見えて一層親の目に可愛ゆい。妻も臺所から顏を出して、
『三人が能く並んで蹲踞んでること、奈々ちやんや[#挿絵]が面白いかい奈々ちやんや。
 三兒は一樣に振返つて母と笑ひあふのである。自分は胸に動悸するまで、此光景に深く感を引いた。
 此日は自分は一日家に居つた。三兒は遊びに飽きると時々自分の書見の室に襲うてくる。
 三人が菓子を貰ひに來る、お兒が一番無遠慮にやつてくる。
『おんちやん、おんちやん、かちあるかいかち、奈子ちやんがかちだつて。
 續いて奈々子が走り込む。
『おつちやんあつこ、おつちやんあつ…

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