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革トランク
かわトランク
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「新修宮沢賢治全集 第九巻」 筑摩書房
1979(昭和54)年7月15日
入力者林幸雄
校正者土屋隆
公開 / 更新2008-03-22 / 2014-09-21
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 斉藤平太は、その春、楢岡の町に出て、中学校と農学校、工学校の入学試験を受けました。三つとも駄目だと思ってゐましたら、どうしたわけか、まぐれあたりのやうに工学校だけ及第しました。一年と二年とはどうやら無事で、算盤の下手な担任教師が斉藤平大の通信簿の点数の勘定を間違った為に首尾よく卒業いたしました。
(こんなことは実にまれです。)
 卒業するとすぐ家へ戻されました。家は農業でお父さんは村長でしたが平太はお父さんの賛成によって、家の門の処に建築図案設計工事請負といふ看板をかけました。
 すぐに二つの仕事が来ました。一つは村の消防小屋と相談所とを兼ねた二階建、も一つは村の分教場です。
(こんなことは実に稀れです。)
 斉藤平太は四日かかって両方の設計図を引いてしまひました。
 それからあちこちの村の大工たちをたのんでいよいよ仕事にかゝりました。
 斉藤平太は茶いろの乗馬ズボンを穿き赤ネクタイを首に結んであっちへ行ったりこっちへ来たり忙しく両方を監督しました。
 工作小屋のまん中にあの設計図が懸けてあります。
 ところがどうもをかしいことはどう云ふわけか平太が行くとどの大工さんも変な顔をして下ばかり向いて働いてなるべく物を言はないやうにしたのです。
 大工さんたちはみんな平太を好きでしたし賃銭だってたくさん払ってゐましたのにどうした訳かをかしな顔をするのです。
(こんなことは実に稀れです。)
 平太が分教場の方へ行って大工さんたちの働きぶりを見て居りますと大工さんたちはくるくる廻ったり立ったり屈んだりして働くのは大へん愉快さうでしたがどう云ふ訳か横に歩くのがいやさうでした。
(こんなことは実に稀です。)
 平太が消防小屋の方へ行って大工さんたちの働くのを見てゐますと大工さんたちはくるくる廻ったり立ったり屈んだり横に歩いたりするのは大へん愉快さうでしたがどう云ふ訳か上下に交通するのがいやさうでした。
(こんなことは実に稀です。)
 だんだん工事が進みました。
 斉藤平太は人数を巧く組み合せて両方の終る日が丁度同じになるやうにやって置きましたから両方丁度同じ日にそれが終りました。
(こんなことは実に稀れです。)
 終りましたら大工さんたちはいよいよ変な顔をしてため息をついて黙って下ばかり見て居りました。
 斉藤平太は分教場の玄関から教員室へ入らうとしましたがどうしても行けませんでした。それは廊下がなかったからです。
(こんなことは実に稀です。)
 斉藤平太はひどくがっかりして今度は急いで消防小屋に行きました。そして下の方をすっかり検分し今度は二階の相談所を見ようとしましたがどうしても二階に昇れませんでした。それは梯子がなかったからです。
(こんなことは実に稀です。)
 そこで斉藤平太はすっかり気分を悪くしてそっと財布を開いて見ました。
 そしたら三円入ってゐましたのです…

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