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女九歳
おんなきゅうさい
作品ID44420
著者岸田 国士
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集20」 岩波書店
1990(平成2)年3月8日
初出「手帖 第一巻第九号」1927(昭和2)年11月1日
入力者tatsuki
校正者小林繁雄、門田裕志
公開 / 更新2006-04-03 / 2014-09-18
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 Y子はK病院で扁桃腺の手術をすることになつた。
 Y子は九歳で、春夏秋冬、風邪をひいた。
 Y子は母親と、K子叔母ちやまと、女中とに連れられて家を出た。
 Y子はその日、平生よりもはしやいでゐた。そして、時々、溜息を吐いた。
 裸にされ、手術室にはひると、そばに母親も、K子叔母ちやまも、女中もゐなかつた。
 Y子は、一寸泣きたさうな顔をしたが、やがて、夢中で口をあいた。――母親が、鍵孔から、息をこらして、中の様子を見てゐることなど、勿論知らなかつた。
 突然、Y子は泣き出した。喉がチクツとした。
「さ、もう一度、口をあいて……」
 お医者さんが云つた。
 母親は、鍵孔に眼を押しつけた。
 Y子は泣きながら、大きな口を開いた。
 こんどは、母親が泣きたくなつた。
 そのことを、あとで、K子叔母ちやまと女中とに話したら、二人とも、また泣きたくなつた。
 Y子は、喉に氷をあてゝ、ちよつと、得意さうに眼をつぶつてゐた。



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