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ポルト・リシュとクウルトリイヌ
ポルト・リシュとクウルトリイヌ
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集21」 岩波書店
1990(平成2)年7月9日
初出「近代劇全集第十七巻 月報第八号」第一書房、1928(昭和3)年1月10日
入力者tatsuki
校正者門田裕志
公開 / 更新2007-06-19 / 2016-05-12
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 ジョルジュ・ド・ポルト・リシュは千八百四十九年に生れたのだから、今年七十八歳である。
 ジョルジュ・クウルトリイヌは千八百六十年生れで、これは当年六十七歳である。
 何れも最近は創作の筆を絶つてゐるやうであるが、どういふわけがあるのか、作家は死ぬまで筆を取つてゐなければならないといふ規則もなし、身心共に疲れて、なほ、駄作に製造に汲々たる有様は、却つて絶筆を清からしむる所以ではあるまい。

 ポルト・リシュの両親は共に伊太利人で、早くから仏国ボルドオに移り住んでゐたものらしく、ジョルジュは、此の葡萄酒の産地で、仏蘭西人として生れ、且つ育つた。
 クウルトリイヌは、「最も純粋な仏蘭西語を話す都市」として、バルザック、デッウシュ、ブシコオ、クルウエ等の生地として、はたまた、ルワアル河の古城巡りの起点として名高いツウルの出身である。本名はジョルジュ・ムワノオ、これを訳せば(固有名詞の翻訳はやや乱暴であるが)「雀のジョルジュ」である。ジュウル・ルナアルが「狐のジュウル」であると好一対、彼は流石に、燕雀たることに甘んじなかつた。
 固有名詞翻訳の序に、ポルト・リシュに及べば、ポルトはポルトガル産の美酒、リシュは「富める」の意。「芳醇なるポルト酒」の風味は、やがて、彼の芸術を偲ばせるものかも知れぬ。(こんな駄洒落を本気にして貰つては困る)

 自由劇場関係の作家は、此の二人のほかにいくらも有り、ジャン・ジュリヤンの不遇を別にしては、それぞれ才能相当の認められ方をしたのであるが、例へばフランスワ・ド・キュレル、ユウジェエヌ・プリユウ、アンリ・ラヴダン、エミイル・ファアブル等は、何れもアカデミイ会員に推されて、大いに官学的臭気を放つてゐるのに反し、ポルト・リシュとクウルトリイヌは、どうしたわけか、民衆に愛されるほど、批評家に担ぎ上げられなかつた。それでも、ポルト・リシュは、最近に至つて、やうやく、アカデミイの椅子を占め、その渇仰者たちをして、いささか慰むるところあらしめたが、クウルトリイヌは、たしかまだそんな話を聞かぬ。それどころか、近頃、周囲のものから、アカデミイ会員の候補に立つことを勧められながら、「競争者がゐなければ……」と云つて笑つてゐるといふ話さへ聞いた。競争者……クウルトリイヌは、なるほど、自分をファルスの主人公にしたくはないだらう。

 ポルト・リシュは、大戦前後から、めきめきと評判を上げた。ことに、「恋の女」がコメディイ・フランセエズの舞台にかけられてから、その人気は一時に沸騰した観がある。
 私は、巴里で、此の「恋の女」や「過去」を観、はじめて戯曲の本質について、ある発見をしたとさへおもつてゐる。
 ポルト・リシュの翻訳は是非やつてみたいと思つてゐたが、たまたま今度第一書房の仕事に関係して、その素志を果たす機会を得た。
 処が、詩人ポルト・リシュの翻訳には…

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