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偉大なる近代劇場人
いだいなるきんだいげぎじょうじん
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集21」 岩波書店
1990(平成2)年7月9日
初出「時事新報」1928(昭和3)年12月28日
入力者tatsuki
校正者門田裕志
公開 / 更新2007-11-30 / 2016-05-12
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 小山内薫氏の業蹟について、最も理解あり、同時に、最も詳細な批評を下し得る人は、他に多くあるだらうと思ひます。それは、凡そ今日、演劇殊に新劇方面で仕事をしつゝある人々の大部は、何等かの意味で、同氏と親しい交渉をもつて居るからです。
 私は、不幸にして、同じ劇壇に身を置いてからも同氏とは最も遠い立場に居た関係上、その赫々たる名声を通じて、氏一流の眼まぐるしい活動の一場を窺ひ得たのみで、こゝで語るべき材料の多くを持ちません。
 しかしながら、ひそかに知つて居たことは、氏が飽くまでも、日本に前例のない近代劇場人としての意義ある存在を示し、之によつて、所謂新劇の組織ある基礎を最も困難な地盤の上に築き得た第一の功労者であつたといふことです。
 それだけではありません。氏はその基礎の上に、何かを残して行きました。これは、いろいろ見方もあるでせうが、私は、一面、それが未完成なものであると同時に、非常に豊富な、或ひは、非常に雑多なものであるやうな気がします。
 小山内氏は、日本の新劇をどういふ風なものに作り上げようといふ意図を示す代りに、かういふ風にもできる、かういふ風にもできると、それからそれへ、いろいろなプランとそれに必要な素材料とを丹念に見せてくれたと云へるでせう。
 一方から云へば、それは応接に遑なき有様でしたが、また一方から云へば、世の新しがり屋に対する皮肉な警告ともなりました。
 なんとなれば小山内氏は、かうして、若き日本の新劇を連れて、一通り世界見学をして廻る傍、自分では、かの「どん底」の演出に於ける如き、コピイを脱した一個の古典的作品を作り上げてゐるからです。
 小山内氏は、恐らく、これから自分の仕事に一つの新しい出発点を与へようとしてゐたのではないでせうか。
 築地小劇場の将来は、小山内氏を失つて、不安を増したやうにも考へられますが、土方氏も明言してをられる通り、小山内氏一個の仕事は、きつと、有為な後継者たちによつて輝かしい完成を見るでありませうし、こゝで私の憶測を許していたゞけるなら、築地小劇場は、それ自身、一層速かに、単色的な特質を発揮するに至るでせう。大に期待すべきであります。
 劇作家としての小山内氏について、私は何も云ふ資格はありません。
 此処で、敢て言ひますが、同氏はかねて、その劇評乃至戯曲評に於て、私の作品を故ら非難攻撃された跡が歴然としてゐます。このことは、私が自分の感情を偽つてゐない証拠に書き添へるのですが、私個人としては、終生忘れることの出来ない事実です。しかしながら、それには相当な理由がある。その理由は、何時か、誰かゞ明かにしてくれるでせう。私は、たゞ此の機会に、日本新劇界の大先輩に対し、その生前に於て、聊か礼を失した憾みがあることを、深く謝する次第です。
 なほ、一学徒として望みたいことは、小山内氏の如き演劇実際家の業蹟は、動もす…

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