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戯曲講座
ぎきょくこうざ
作品ID44600
著者岸田 国士
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集21」 岩波書店
1990(平成2)年7月9日
初出「劇作 第一巻第三号」1932(昭和7)年5月1日
入力者tatsuki
校正者門田裕志
公開 / 更新2007-12-21 / 2016-05-12
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 今度明治大学の文科に文芸科といふのができ、一般文芸に関する教育、殊に、創作方面に於ける実際的指導をさへすることになり、私も亦、戯曲講座の一部を受持つことになつた。
 自分の専門とはいひながら、「戯曲を書く」といふことについて、私自身、誰に習つた覚えもなく、従つて、その「コツ法」を人に伝へることなど、まつたく思ひもよらぬことなのだが、今仮に、「戯曲並に戯曲創作について、知り又は感ずることを述べよ」といふ註文なら、それはできなくはないと思ふ。
 私は、この機会に、自分の戯曲論を整理し、系統づけ、なし得れば、予てはつきりさせてみたいと思つてゐた戯曲家の m[#挿絵]tier と art 即ち、技術と芸術の区別、更に、戯曲制作の過程を習慣づける作家の稟質とその法則、戯曲の伝統的分類と新しいジャンルの決定など、触れてみたい問題は沢山あるのである。
 そして、次に、劇芸術家の素質又は天分の成長に欠くべからざる「劇的感覚の訓練」を、あらゆる方面からの試みをやつてみたいのである。これは主として、感受性の発展に重心をおき、観察と想像の両面から、現実への興味のもち方と、舞台的幻象の描き方を体得させるもので、戯曲の主題、結構、文体を通じて、この感覚の有無強弱が、決定的にその価値を支配するものだからである。
 その試みは、具体案として、様々な方法が考へられるが、最も有効な一つは、いふまでもなく、名優の演技に接しるといふことである。これから新しい戯曲を書かうとする人々は、この意味で、日本に生れたことは不幸である。が、そんなことを云つてゐても仕方がないから、それに代る方法を選ばなくてはならない。私は、目下、それについて研究中である。
 実際をいふと、人に戯曲の書き方を教へる暇に、自分でいいものを書く方がほんたうかもしれない。殊に、労多くして効すくなしといふ不安が、固よりなくはないが、今日の如く戯曲不振の時代に於て、一人でもそれに志すものがあれば、みんなでその芽を育てて行く義務があると思ふのである。(一九三二・五)



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