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文学座第一回試演に際して
ぶんがくざだいいっかいしえんにさいして
作品ID44610
著者岸田 国士
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集24」 岩波書店
1991(平成3)年3月8日
初出「文学座第1回試演 パンフレット」1938(昭和13)年3月25日
入力者tatsuki
校正者小林繁雄、門田裕志
公開 / 更新2005-04-21 / 2014-09-18
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 文学座は去年の六月以来、久保田万太郎、岩田豊雄両氏並に私の三人がよりより相談をして大体のプランを樹て、九月に、主だつた協力者の初顔合せをし、次で、内輪の結成式を挙げました。
 この劇団の組織上の特色は、われわれ三人が幹事といふ格で共同の義務を負ひつゝ、しかもそのうちの一人が、六ヶ月を任期として、交代に実際上の責任者たることを定めてあることです。
 今期の当番幹事たる私は、若干、専断的に事を運びました。
 去年の十一月、第一回公演を行ふ筈で準備が進められてゐたにも拘はらず、突然、この企劃を延期するの止むなきに至つた事情は、要するに、今日に於ても、なほ解消されてはゐないのです。友田恭助君の戦死による田村秋子さんの出演不能、他から俳優を借りて来るとすれば必ず我慢しなければならぬ稽古不足、専属として将来有望な人達はゐても、その平均年齢は、われわれが望むそれより十五以上少いといふ事実など、到底満足な公演が出来る筈はありません。たとへやれたとしても、出し物の範囲が極度に制限され、少くとも、演技力の一般的向上を計算にいれなければ、私としては、今すぐに、文学座の仕事を見てくれと云つて、その舞台を公表する気にはなれません。
 しかし、俳優の訓練といふ点から云つても、作者の修業といふ点から云つても、公衆の眼と耳とは、誠に必要欠くべからざる教科書であり、教師なのでありますから、甚だ勝手な云ひ分ですが、もうしばらく、文学座のために、支持と協力を与へられる意味で、今度のやうな「試演」を観ていたゞきたいと思ひます。さういふわけで、宣伝などは殆どやりませんし、経費も非常に切りつめてあります。その代り、稽古には、一ヶ月半といふ時日を費しました。このシステムは、私流かも知れませんが、こゝから何かゞ生れるといふ確信をもつてゐます。
 装置のやうなものでも、従来の新劇は「身分不相応」に金をかけすぎるといふのが私の意見で、今度は、装置家にはお気の毒でしたが、思ひきつて予算をけづり、単純で効果的な新工夫を凝らしてもらひました。しかし、この考案は、決して経済的理由からのみ出発したものでなく、写実万能の弊を打破する試みともなるのでありまして、一挙両得の道を自ら撰んだことにならうかと思ひます。
 最後に、一言附け加へておきたいことは、映画と漫談でお馴染の徳川夢声氏が、今度われわれの文学座に参加して、本格的俳優としての新しい出発を企図してゐることです。同氏の演技については、まだいろいろな観方はできるでせうが、私が演出者として初めて彼に接した印象から云へば、恐らく、彼の存在は、将来、日本現代演劇の大きな魅力となることを保証します。



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