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俳優倫理
はいゆうりんり
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「岸田國士全集25」 岩波書店
1991(平成3)年8月8日
初出「演劇映画研究所での講義」1940(昭和15)年4月23日開始
入力者tatsuki
校正者門田裕志
公開 / 更新2010-04-03 / 2014-09-21
長さの目安約 106 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

     1 俳優とは何か

 講義の題目は俳優倫理というのですが、俳優倫理という言葉は今日までどこでも使われた例はないと思います。この研究所で初めてそういう講義の題目を作ったのですが、元来、この種の問題に関して今日まで纏った意見というものは恐らく東西を通じて発表されてないだろうと私は思います。しかし、俳優を単に芸術家としてだけでなく、人間として論じた人は沢山ある。そういう議論を通じて見ますと、社会が俳優にいったい何を求め、又俳優をどういう風に見ているかということがほぼわかる。皆さんも既にお気づきのように、今日まで、日本でも、外国諸国でも、一般社会が実際に、俳優という職業を一種特別なもの、ほかのどんな職業とも非常に違ったものと見ているのです。
 そこで、芸術家としての俳優についていえば、立派な俳優となるためにはそれ相当の修業がいるのですが、俳優もまた一個の人間として、社会人として、そこに一つの自分を完成する途がなければならない。またそういう風にして、人間としての自分を完成することによって、一方芸術家としての自分をも育てあげることができるのだという考えから、ひとつ現代の新しい道徳というものを基礎として、私は俳優倫理という問題を考えてみたいと思っています。
 殊に現在日本ではいろいろな意味で、日本人の精神的な問題が研究されております。例えば、文学の方で申しますと、モラールの問題というものがある。モラールというのは在来の日本の言葉でいえば、道徳とか倫理とかいうことになります。この、文学の上で非常に重大に考えられているモラールの問題というのは、結局、文学を作りあげるためばかりでなく、今日の人間がどういう倫理観をもつべきであるかという、そういうことが非常に探求されているのです。俳優の仕事は一面に於て文学につながるものである。そして、同時にまた、今日の社会と関係をもっている。何故かというと、俳優の仕事の根本には、やはり人間の研究、人間生活を表現するということがあり、またそれと同時に、一般社会にどういう影響を与えるかという問題が含れているからです。
 そこで、俳優倫理の問題は、将来、俳優を志すものにとっても、またその俳優をふくむ一つの大きな共同作業である演劇全般にとっても、決して等閑視することのできないものなのです。なにしろ、俳優倫理という問題は、恐らく学問としての一つのちゃんとした形はとることができないでしょう。また、私が一年間講義をしても、それが纏るものとは考えていない。これはひとつ、是非皆さんと一緒にこの問題を考えて行きたいと思う。そこで、差当り私がここで受持つ時間を利用して、この俳優の倫理という問題を次のように分けて、みなさんにお話してみようと思います。
 先ず、いったい俳優とはどういうことをするものかという問題、俳優とはなんぞやということです。その次には俳優の天…

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