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文化の新体制
ぶんかのしんたいせい
作品ID44659
著者岸田 国士
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集25」 岩波書店
1991(平成3)年8月8日
初出「文化の新体制(大政翼賛叢書第六輯)」大政翼賛会宣伝部、1940(昭和15)年12月15日
入力者tatsuki
校正者門田裕志
公開 / 更新2010-03-15 / 2014-09-21
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

       一

「文化」といふ言葉は今までごく手軽に使はれて来ました。しかし、果して文化とはどういふことでせう。今まで多くの人は、たゞ「文化」といふ言葉のもつ、漠然とした感じを胸に受けとつてゐただけで、文化の本当の姿を突きつめて考へてみたことはなかつたのです。これは少くとも今日まで、自覚された「文化」といふものが、国民生活の隅々に行きわたつてゐなかつたからです。近頃は殊に「文化何々」といかゞはしい物の名称にかぶせられ、お先つ走りの好みに投ずる軽薄な語感さへ生むに至りました。いくらかものゝわかつた人々の間でも、文化生活といへば、余裕のある金持階級の近代趣味を誇る生活を指すやうに考へられ、文化事業といへば、なんとなく贅沢な慈善行為や、毒にも薬にもならぬ仕事が連想されがちでありました。
 しかし、正しい意味の「文化」とはさういふものではありません。もつとわれわれの身についたもので、国民全体の日常生活がいかに行はれてゐるか、その「生活の心構へと方法」とが、とりもなほさず「文化」のあらはれなのであります。
 われわれが三度三度食事に使ふ茶碗と箸がすでにわれわれの文化です。茶碗や箸などは無ければなくつても十分食事はできます。しかし茶碗を使ひ箸を用ひるといふこと、そこに人間生活に於る文化の姿が示されてゐるのです。同じ茶碗や箸でも、なるべく使ひよく、丈夫で、形も色も美しいとすれば、それが文化的にみて優れたものなのです。それと同時に、それらの道具を上手に取扱ひ、清潔にし、これによつて、気持よく食事がとれるといふことになれば、それだけで、もう一つの立派な文化生活なのであります。

       二

 さう考へて来れば、文化といふものが如何にわれわれの日常生活を左右してゐるかがわかります。文化が健全に進むにつれて国民の生活が向上し、それによつてまた物心両面ともに国力が増大するといふことがいへるのであります。
 さういふわけでありますから、大政翼賛会文化部はいろいろの方面から、直接間接に、現代文化の欠陥を埋め、日本固有の優れた文化を守り育てると同時に、明日の新しい生活を築くために必要な糧を、求め、培つて行くつもりであります。とりわけ、お互はいま当面の難局を切りぬけるために必死の努力をつづけてゐますが、物資の欠乏は、当然のことゝして、もう暫く忍ばなければなりますまい。しかし同じく困苦に耐へるにしても、国民全体は、もつともつと元気に、希望をもつて、明日の戦ひにのぞまなければなりません。それがためには、日本人同士は、どんなことがあつても人を見殺しにはしないといふ、お互の強い信頼があつてほしい。それからまた、われわれがほんとに力を合せ、一緒に智慧をしぼれば、まだまだいくらでも余裕がでるのだといふ安心もあつていゝと思ひます。たゞ、もつと本気になつて、政府も国民も、現在の文化の弱点がいつ…

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