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青年へ
せいねんへ
作品ID44662
著者岸田 国士
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集25」 岩波書店
1991(平成3)年8月8日
初出「読売新聞」1941(昭和16)年1月2日
入力者tatsuki
校正者門田裕志
公開 / 更新2010-03-15 / 2014-09-21
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 日本は今、興亡の岐路に立つてゐる。この事実をわれわれはまづはつきり頭にいれておかなければならぬ。わが民族の矜りは「どうにかなる」といふやうな哲学の上に築かれてゐるのでは断じてないのである。
 国民は明日の日本が何処へ行くべきかをひとしく心に想ひ描いてゐる。しかしながら、現実の政治はまだまだ矛盾と混乱に満ち、指導者は輝かしい未来の姿を少しも予言してゐないのである。
 新体制といひ、国防国家の建設といひ、その言葉にはむろん宏遠な理想が含まれてゐるに違ひないけれども、国民各自の胸ををどらすやうな影像を浮びあがらせるのは、まさに今後のわれわれの仕事である。
 私はひそかに考へるのであるが、この新しい政治の原動力となるのは、次代を背負ふ夢多き青年の声であり、その声は若きがゆゑに高く、純なるが故にこれを遮るものがない。
 青年の求めるところは、権勢でも利慾でもない。真なるもの、善なるもの、美なるもの、たゞこれだけである。即ち、人生最高の表現である。
 日本の政治は、久しく、この目標を見失つてゐた。民族の本能がやうやくこれに気づかうとしてゐる。新日本の出発は、青年の希望そのものである。
 しかしながら、政治の性格なるものは一朝一夕に改変し得るものでない。諸君は辛抱強く待たなければならぬ。待つといふのは手を拱いてゐることではない。求めるものは大いに求め、営々来るべき日に備へ、われわれが成し遂げ得るであらうことを倶に成し遂げてくれなければならぬ。
 大政翼賛運動の標語は「臣道実践」である。国民としての青年の道は、それぞれ職あるものは職に励み、学窓にあるものは学業にいそしむことにありとはいへ、たゞそれだけのことなら、今更めて云ふ必要はないのである。私が、特に、この時局下に於て、青年に期待したいのは、わが日本のため諸君が心から欲するところの「生き方」をまづ主張せんことである。日本人として、かく生きねばならぬといふ、ひとつの精神がそこに見出され、かく「生きる」ことを熱望する意気が、諸君の先輩を動かしてこそ、日本の新しい政治ははじめて軌道に乗るであらう。
 政治を論ずることがまだ早いと云はれるなら、諸君は、なんの躊躇もいらぬ。率直に、大胆に、「生活」を論ずればいゝ。日本が強く、正しくあるために、諸君は今日の日本人がこのまゝではいかぬといふことを誰よりも痛切に感じてゐる筈である。われわれが持ち前の実力を発揮するために、何が障碍になつてゐるか、諸君の周囲を見ればわかる。健全な文化の名に値する何ものが近代日本の手によつて創られたか。諸君を奮ひ起たせる名目は、日常の生活のうちに満ち満ちてゐるのである。(昭和十六年九月)



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