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外国語教育
がいこくごきょういく
作品ID44683
著者岸田 国士
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集25」 岩波書店
1991(平成3)年8月8日
初出「改造 第二十四巻第二号」1942(昭和17)年2月1日
入力者tatsuki
校正者門田裕志
公開 / 更新2010-04-10 / 2014-09-21
長さの目安約 15 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 今日、わが国における外国語の問題を考へるとすれば、およそ次の三点、即ち、この歴史的転換期に直面して外国語教育はいつたいどう取扱はるべきかといふこと、次には国際的な関係が一層複雑微妙になつて来たかういふ時代に、外国語の活用ないし利用がどんな状態にあるか、つまり日本人としていまどの程度に外国語を実際に生かして使つてゐるかといふこと、もう一つは、日本語の海外進出に絡んで、やはり日本語を一応ほかの国から観た外国語として考へてみるといふこと、これらの点が主として問題になると思ふ。
          ○
 最近、従来の外国語教育がいろいろの角度から批判されるやうになつて、例へば、外国語教育が偏重されてゐたといふ見方から、授業時間の削減などが行はれるやうになつた。これに対して、外国語が果して偏重されてゐたかどうか、むしろ今日の時局なればこそ外国語の教育はなほ一層これを重要視しなければならないのではないか、といふ考へ方が対立してゐる。この点についてのわたくし自身の見解は、やはり外国語の教育は一層重視しなければならぬ――といふことを前提とするけれども、しかし、重要視するにしても、今日までの教育方法がかなり根本的に改革さるべきであると思ふ。即ち、外国語教育において真にその成果を挙げるためには、従来の教育方法にはいくつかの重大な欠点があるやうに思ふのである。
 まづ日本人が外国語を学ぶ目的をもつと明確に認識する必要がある。従来は、専門的な知識を習得するために、外国語を通じてそれぞれの国の文化に触れてこれを摂取するといふことが、外国語を学ぶ最も大きな目的であつた。また更に一つの大きな目的は、実用的に外国人と或る程度まで自由に意志の疏通ができるやうに、といふことであつた。しかし、一般に中等学校で外国語を学ぶ場合には、将来いま述べたやうな意味で外国語を実際に活用するやうな職業に進むもの以外は――即ちその数において大部分のものは――常識として一通り初歩的な外国語を習得しておいたはうがいゝといふふうなこと、例へば看板の横文字だとか新しい外来語の意味ぐらゐは解らなければいけないとか、もつと滑稽な例をいふと、女学校などでは、横文字が読めなくては缶詰の使ひ方がわからないとか、甚だ他愛のないことが、しかも公然の理由になつてゐたと思ふ。ところで、この第一、第二の目的は、外国語習得の理由として、かなりハツキリもしてゐるし、また納得もできるけれども、第三のいはゆる常識として――といふ考へは、今後はぜひとも一掃しなければならない。これはまつたく欧米依存の精神の現はれであつて、つまりは日本人の生活の到るところに欧米崇拝、或ひは欧米依存の事実があつたことを物語るものだと言はなければならない。しかも、事実において、中等学校だけの外国語などは殆んどなんの役にも立つてゐないのである。例へば、前述の缶詰の使用法を…

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