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街の探偵
まちのたんてい
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「「シュピオ」傑作選 幻の探偵雑誌3」 光文社文庫、光文社
2000(平成12)年5月20日
初出「シュピオ」1938(昭和13)年4月号
入力者網迫、土屋隆
校正者門田裕志
公開 / 更新2005-04-26 / 2014-09-18
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

     キップの装置

『さっきから気をつけていると、コトンコトンと、微かなリズミカルな音がしているね』
 と、彼は指を天井の方に立てて云うのであった。
『ああ、僕にも聞えるよ。鼠が居るのじゃないか』
 と、僕はこたえた。
『ねずみ? 鼠が音楽家でもあればねえ』
 と、彼はニヤリと笑って、
『――あれは天井裏に、瓦斯を発生する装置が置いてあるんだよ』
『え、瓦斯を発生するって、一体なんの瓦斯だい』
『多分キップの装置だろうね。亜鉛を硝子瓶に入れて置いて、その上に稀硫酸を入れるのさ。うまいこと水素瓦斯が出てきてはやみ、やんではまた出てくるんだよ』
『おい帆村。早く云ってくれ。なぜ水素瓦斯の発生装置が天井裏に置いてあるんだ』
 と、僕は帆村探偵の腕をつかんでゆすぶった。
 その途端に、電話のベルがけたたましく鳴りだした。
 僕ははっとした。そして電話機のところへ駈けよろうとしたが、そのとき帆村が、
『おい待て、電話機に手をかけるな』
『ええっ、なぜ――』
『俺の後についてこい。説明はあとでするから――』
 というなり帆村は、椅子から立ちあがった。彼の手はその椅子を頭より高く持ちあげた。そしてつかつかと裏口の窓へ近づくと、持っていた椅子をはっしと窓にぶちつけた。
 がらがらがらと硝子は壊れる。
『はやく俺につづけ』
 と、帆村はその壊れたガラス窓から暗い外に飛だした。
 僕はぎょっとした。そして無我夢中に彼につづいて窓からとびだした。全身の毛が一時にぶるぶると慓えたように感じた。帆村は脱兎のように走る。僕もうしろから走った。
 百雷の落ちるような大音響を聞いたのは、それからものの五分と経たぬ後だった。ふりかえってみると、さっきいた事務所はあとかたもなくなって、あとには焔々と火が燃えているばかりであった。
『ああ愕いた』
 と帆村がいった。
『君が電話へ出てみろ。その瞬間に、あの大爆発が起ったんだ。敵は君がいることを、電話でたしかめようとしていたんだからね。いや全く生命びろいだった』
 といって僕の手を強く握った。
 後になって、あのときどうしてその爆発が起ると分ったんだと帆村に訊いたところ、彼は涼しい顔をして、
『まさか君は、時局柄君自身が狙われていることを知らないわけではなかろう。ああいう変な音響を耳にしたときは、すぐさてはと感じなければいけないんだ。これからもあることだ。変なことがあったら、すぐさてはと考えて、そして思いあたるところがあれば、すぐさま逃げだすようにしないと、君の生命は危いぜ』
『うん、それは分った。だがあの爆発は、どんな仕掛だったのかね。キップの装置がどうしたんだ』
『キップの装置といえば、水素瓦斯の発生器じゃないか。それが屋根裏で、ぶつぶつと水素瓦斯を出しているんだ。そこへ火をつければ、大爆発が起ることは、誰にも分る。ことに水素瓦斯に空気が…

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