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S夫人への手紙
Sふじんへのてがみ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「岸田國士全集27」 岩波書店
1991(平成3)年12月9日
初出「時事新報」1948(昭和23)年4月1、2、3日、5月3、4、5日、6月18、19、20日、7月12、13、14日
入力者tatsuki
校正者門田裕志
公開 / 更新2010-07-15 / 2014-09-21
長さの目安約 31 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



 これから毎月一回あなたに手紙を書こうと思いたちました。今度の戦争で愛する夫君を失われ、また小さい二人のお子さんたちの将来について思いなやんでいられるあなたから、いろ/\なご相談を受けた時、私がまず感じたことは、国籍こそ日本にあつても、やはりヨーロッパ人の血を享けた女性としてのあなたが、果して、これからさき日本に止つて、われ/\と運命を共にすることがおできになるか、ということでした。
 しかし、一方、かね/″\、あなたが、夫君の生国であるという理由はもちろんあるでしようが日本という国に興味をもち、日本人の特質をよく理解し、この国と人とを心から愛しようと努めていられた事実をよく知つていますから、なによりも誠実な生き方をしようとしてもがいていられるあなたのすがたは、私の心を一層強くうちました。
 なんの力もない私ではありますが、あの時のあなたのお言葉に従えば、お子さんたちを「よい日本人」に育てあげたいというあなたの念願に対して、若しもなにかのご参考になればと思い、現在、あなたを取巻く日本の社会の様々な風潮、日本人のあらゆる表情について、あなたに疑問を起させそうな点を、その時どきに取あげて、私流の解釈を加えてみようと思うのです。あなたが日本語の新聞をかなり正確に読まれるのには私も感心しているのですが、それ以上に、あなたは実に鋭い読み方をなさつているのに気がついて驚きました。それもそのはずでしよう、十年前日本の土を踏まれた、その最初の日から、あなたは見るもの聞くものについて、夫君に手きびしい質問をされたという話を伺つています。
 私はご承知の通り、どこからどこまで日本人ですが、日本の自慢というものはあまりしない方です。その代り、異国の人々に日本を正しく理解してもらいたいという気持、もし美点があるとすればその美点と同様に、その欠点をも、表面的な観察ですぐに結論を下されては閉口だ、という気持でいつぱいです。
 実は、われ/\自身が、自分というものをまだよく知つていない。誤解はそこからも来るのでしようが、私は、あなたのような方の疑問をいくらか解くことによつて、自分自身をもつとよく知ることができるのではないか、という期待が一方にあるくらいです。
 私は最近、連合軍司令部当局から日本の労働組合に対して発せられた警告ほど、われ/\にぴんと来た警告はなかつたように思います。覚えておいでになるかどうか、つまり、日本の労働組合の動きそのものゝなかに、その精神とはおよそ遠い「封建性」が巣喰つているという事実の指摘です。これが資本家側に武器として利用されなければいゝがとは思いますが、たしかに、家族手当とか、税金負担とかの要求は、労働運動の目標としては変なもので、これは、最も進歩的であるべきはずの頭脳から迷い出た封建思想の幽霊です。ところが、これは単に労働運動に限らないということを、…

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