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ゼンマイの戯れ(映画脚本)
ゼンマイのたわむれ(えいがきゃくほん)
作品ID44774
著者岸田 国士
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集1」 岩波書店
1989(平成元)年11月8日
初出「改造 第八巻第七号」1926(大正15)年7月1日
入力者tatsuki
校正者門田裕志
公開 / 更新2012-02-15 / 2016-04-13
長さの目安約 38 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

主なる人物
笠原平造  四十六才
妻たけ子  四十二才
長男政一  二十三才
娘 富子  二十才
次男圭次  八才
北野良作  四十五才
安田某   二十六才

此の「物語」は、特別の指定以外、どの部分を画面で表し、どの部分を字幕で、また、どの部分を「説明」で補はうとも、それは監督の自由である。たゞ、各場面々々の印象を、映画的に活かして貰へばいゝ。
[#改ページ]


第一巻




古ぼけた柱時計が大きく映る。針が零時十五分を指してゐる。
捩子を持つた男の右手が現はれる。時計を捲き始める。針を九時に直す。
振子を振つて見るが、すぐ止まつてしまふ。



時計の内部が映る。ゼンマイが外れる。
そのゼンマイが、幕一杯に大きく映る。そして、今度は、それが急速度で廻転し始める。すると、その中心から、白い華車な女の右手が現はれる。人差指を出して、何かを指し示してゐる。
此の画面が次第に消えて、次の情景が写し出される。



笠原平造は、日当のいゝ椽先にあぐらをかいて、一心に小刀を動かしてゐる。見ると、玩具の船が出来かけてゐる。傍らに、圭次が、おとなしくそれを見てゐる。もう、帆をかけるばかりである。
妻のたけ子は庭の一隅で張物をしてゐる。
船ができ上つたので、平造は盥に水を入れて、それを浮かして見る。圭次がよく遊んでゐるのを見て、平造は鶏小屋に近づく。金網の破れたところを繕ふ。
富子は母に何かせがんでゐる様子である。
――お父さん、富子が、お友達のとこへ行きたいつて云ひますよ。
平造の慈愛と威厳とを無器用に交へた表情。
――今日はやめとけ。後でお客さんがあるから……。
富子の不服らしい顔附。
母親の富子をたしなめてゐる様子。
平造は、娘の気を惹くやうに、
――安田が、また、トランプをしに来るつて云つとつた。
富子、相変らず不機嫌である。しかし、どうにもならないことを知ると、急に、何もなかつたやうな顔して、奥に姿を消す。
平造は、鶏小屋を離れると、今度は、花壇の方へ歩を運ぶ。草花の新芽がのびてゐる。それに、軽く指をふれながら、誰に云ふともなく、
――今年は芍薬がよく出た。



ある官庁の事務室。――六七人の男が事務を取つてゐる。平造は頻りに帳簿の整理をしてゐる。
上役らしい男が現はれる。平造の傍に来て、平造の差出す書類に眼を通す。大きくうなづく。ふと、卓子の上に立てかけてある、写真立のやうなものに眼をつけ、それを取上げて見る。それは、カレンダアであるが、そのカレンダアを右に開くと、その裏が汽車の時間表になつてゐる。そして、左から畳み込んである別の紙に住所録がついてゐる。それをまためくると、裏に、必要な電話番号が書き込んであり、中央の仕切には、一枚の写真が張りつけてある。
――はゝあ、なるほど、これは便利なもんだね。君の考案かい。
平造一寸恐縮する。
――此の写…

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