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秋の対話
あきのたいわ
作品ID44782
著者岸田 国士
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集2」 岩波書店
1990(平成2)年2月8日
初出「大阪朝日新聞」1927(昭和2)年1月3日
入力者tatsuki
校正者Juki
公開 / 更新2009-08-17 / 2014-09-21
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

桔梗

女郎花
こうろぎ


少女
老婆

高原――別荘の前庭――秋
遠景は、澄み渡つた空に、濃淡色とりどりの山の姿。
舞台中央に白樺の幹が二本並んでゐる。その根もとに雑草の茂み。
[#改ページ]

       第一場

朝――小鳥の啼き声が聞える。桔梗と女郎花と芒とが、それぞれ異なつたポーズをもつて白樺の根もとに寄り添つてゐる。桔梗は十八九、女郎花は十六七、芒は二十一二の少女――何れも、その花の感じに応はしい服装。

桔梗  でも、どうしてお嬢さんだけ残つてらつしやるんでせう。婆やさんと二人つきりぢや、随分淋しいわね。
芒  婆やさんが、三人分ぐらゐしやべるからかまはないんでせう。
女郎花  あら、だつて、昨夜から今朝にかけて、婆やさんの声は聞えないぢやないの。
芒  それや、お嬢さんは、まだ起きていらつしやらないし、話す相手がないからなんだわ。
桔梗 お嬢さんは、今日に限つてどうしたんでせう。こんなに遅くまで……。きつと、泣いてるのよ。
女郎花  どうして……。泣くわけはないぢやないの。もつと此処にゐたいつていひ出したのは御自分なんですもの……。旦那さんや奥さんが、どんなにおつしやつても、東京に帰るのはいやだつていひ張つたのよ。そのわけは、わかつてるでせう。
芒 ┐
  ├(同時に)どういふわけなの……。
桔梗┘
女郎花  あら、あなたたち、知らないの、それはね、かうなの――あたし、それ、こうろぎさんに聞いたのよ……。
芒  何時……。
女郎花  一昨日の晩。あなたたちが眠つてしまつてから……。かうなんですつて――(かういひながら、芒と桔梗の耳元に口を寄せ小声で何かいふ)
芒  まあ……。
桔梗  ほんと、それは……。
女郎花  さうなんですつて……。
芒  だつて、もう、他の別荘はみんな閉まつちまつたわよ。ここ一軒だけよ。夜、灯がついてるのは……。
女郎花  うそですよ、あの白煉瓦の家は、まだ引き揚げませんよ。
桔梗  あそこに、若い男の人つて誰がゐて……。あの変な、髯をぼうぼう生やした詩人だけぢやないの。
女郎花  ね、それが怪しいのよ。
芒  まさか……。お嬢さんが、あの詩人と……。あら、をかしい。(笑ひこける)
女郎花  ぢや、今夜、起きて聞いて御覧なさい。あの北の窓口よ……。きつと、あそこで、二人の話声がきこえるから……。
桔梗  それが、あの詩人だつていふことがどうして判る?
女郎花  それや、あんた、話のしぶりでわかるわ。――お嬢さんがかういふんですつて――あなたはどうしてさう、黙つて考へてばかりゐるのつて……。それからあなたは手をどこへしまつてるのつて……。そら、あの詩人を御覧なさいよ。何時でも歩く時懐手をしてゐるぢやないの。
芒  さうね。
桔梗  ぢや、やつぱり、さうか知ら……ずゐぶんお嬢さんも物好きね。
女郎花  あたし、な…

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