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可児君の面会日
かにくんのめんかいび
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集2」 岩波書店
1990(平成2)年2月8日
初出「女性 第十一巻第三号」1927(昭和2)年3月1日
入力者tatsuki
校正者門田裕志
公開 / 更新2012-02-10 / 2014-09-16
長さの目安約 33 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

可児君
可児夫人
女中
織部
木暮妙
鳥居冬
駒井
毛利

斎田
[#改ページ]

一月十二日午後――
極めて平凡な客間兼書斎

可児君  今日こそゆつくり寝てゝもよかつたんだ。下らないことに気をつかつたりなんかして――見ろよ、一人も来ないうちから、もう草臥れた。(仰向けに寝ころがる)
夫人  そんなに気をおつかひになることはないでせう。二時までに、その辺を綺麗にしておいて、ねえやに、襦袢を着替へさせて、あたくしが、この、カバアを脱ぎさへすればよろしんですもの。
可児君  それでよろしいもんか。座蒲団は借りてあるか。
夫人  五枚揃つてれば沢山ですわ。
可児君  でも、初めての面会日だからね。普段来たこともない奴まで、思ひ出してやつて来るかも知れないよ。
夫人  一々端書なんかおだしになるんですもの。それに、月一度は、いくらなんでも、少な過ぎますわ。それも、一日中とか、午後全部とかなら、まだしもですけれど、二時から三時まで一時間なんていふ面会時間はどこへ行つたつてありませんわ。尤も、その為に、来たい人でも来れなかつたりなにかして……。
可児君  丁度いゝさ。毎週例へば月曜日を面会日と決めてだね。第一月曜は朝から一人きり、第二月曜には夜遅く二人、第三の月曜は、一日待ちぼけを食ふなんていふのは、あんまり気が利くまい。いや、そんなもんだよ。さうして、面会日でもない日に、一寸でよろしい。お手間は取らせませんなんてな客が、ぞろぞろ来てさ。そのうちには、図々しく面会日を無視して、そこまで来た序だなどゝ、昼食から終電車まで尻を据ゑて行く奴がゐるに違ひない。さうなると、面会日には一日縛られ、面会日でない日には、落ちついて仕事が出来ず、結局、面会日を決めたゞけ損といふことになる。面会日の最も有効な利用法は、日を成るべく少く、時間を成るべく短く、と、ね、これだ。おれは、月一回、一時間の制度が、最も機宜に適してゐると思つてゐる。それや、もつと交際でも広くなれば、また別さ。さうなれば、お前を中心にして、月一回ぐらゐ、婦人連だけのサロンを開いてもいゝな。
夫人  あたくしは、さういふことは真平ですよ。面倒なことは出来るだけ削くといふのが、あたくしの生活のモツトオなんですから……。
可児君  生意気云へ。おれだつて面倒なことは好きぢやないさ。お前は、何かい。おれの地位が、社会的に向上するのを悦ばないのか。おれの周囲に集るおれの崇拝者は、おれのそばにゐるお前を、同時に崇拝するやうになるんだぜ。
夫人  有難いもんですわね。
可児君  冗談でなくさ。お前は、さう思はないかい。
夫人  思はなければどうなんですの。あなたは、もうそんなに偉くなつて下さらない方が、あたくし、安心ですわ。
可児君  どうして?
夫人  あなたお一人が、だんだん高いところへ上つて行つておしまひになるやうな気がする…

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