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『猿・鹿・熊』の序
『さる・しか・くま』のじょ
作品ID44839
著者岸田 国士
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集28」 岩波書店
1992(平成4)年6月17日
初出「猿・鹿・熊――日本にすむ野生動物の生活」さ・え・ら書房、1951(昭和26)年11月1日
入力者門田裕志
校正者noriko saito
公開 / 更新2011-04-06 / 2014-09-16
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 この本の著者と私は一面識があるといふだけで、それほど深い交渉はないのだけれども、かねがね地方における篤学篤行の士であることは聞き及んでいた。
 たまたま今度、本書の出版にあたって、私に序を寄せよとの希望があり、私は、自分に与えられたこの役割を無下に辞退する気にならなかった。それは、本書のゲラ刷を一読してみて、類の少い内容のものだといふ感じがしたばかりでなく、僻地における教師生活の実状を知る私として、この種の作業に身を入れる著者の精神を高く評価したためである。

 野性動物の生態を観察、記録する興味と実益は、いまさら事新しく論ずるまでもない。本書の著者もおそらく先人の残した業績について、ひと通りの知識を備えているにちがひないが、それはそれとして、自分のおかれている自然環境のなかから、自分の眼で見、耳に聴く活き活きとした動物世界の習性の数々を、必ずしも純然たる科学者の探究方法によらず、むしろ、童心にもうったえ得る親しみ易い態度で、平明に語ろうとしている点が、私の注意をひいた。

 猿、鹿、熊の三つの題を撰んだのも、信州という山国の、そのまた山奥の風土記の味いを添えつつ、最も子供たちに好奇心をもたれている愛嬌ものを揃えたところに、著者のねらいがあるのであろう。
 そして、そのねらいはたしかに成功している。
 私もしばらく信州で暮らしたことがあり、現在も上州の山の中で一年の大半を過すのであるが、本書によって教えられるところはもちろん多いし、さらに、これらの動物に対して、新たな興味が湧いて来た。しかし、実際に彼等の山中における生活を見る機会はなささうだから、せめて、この書物を読んでおいて、もう一度動物園へ行ってみるつもりである。きっと、檻の中の彼等は、私がなにを知っているかを気づかずに、すました顔でむしゃむしゃなにかを食っているであろう。その顔を見るのは、今から楽しみである。
  一九五一年十月
浅間山麓にて  岸田國士



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