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珍重すべき国際感覚
ちんちょうすべきこくさいかんかく
作品ID44843
副題――芥川賞(第二十六回)選後評――
――あくたがわしょう(だいにじゅうろっかい)せんごひょう――
著者岸田 国士
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集28」 岩波書店
1992(平成4)年6月17日
初出「文芸春秋 第三十巻第四号」1952(昭和27)年3月1日
入力者門田裕志
校正者Juki
公開 / 更新2010-09-28 / 2014-09-21
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 今度の銓衡では、出席者のほとんど全部が、この「広場の孤独」を第一に推し、私もやゝ意を強くすることができた。といふのは、これまで屡々、私が特に推したものが選に漏れてゐるからである。
 この作品は、既に識者の注目を浴び世評もおほかた定まつてゐると聞いた。芥川賞の出しおくれといふ観もあるが、それは決して作者の不名誉にはならぬと思ふから、遠慮に及ばぬであらう。
 前作「歯車」から「漢奸」へと一歩進境をみせ、更に上海を舞台とするものから、今度の内地に材をとつた「広場の孤独」に至つて、作者の手腕は、もはや懸念の余地がなくなつた。
 アメリカの特派員も中国記者も墺国貴族と自称する国際ゴロもなかなかよく書けてゐる。上海の異国的雰囲気は、これはちよつと誰にでも難物だが、現在の東京の植民地風景は、却つて作者の筆力にふさはしく、むしろ、作者に最も近いと思はれる人物の輪郭が浮き出て来ない憾みがあるだけである。それはどういふことかといふと、あまりに時間的な素材の中心にあつて、作者は自己の眼にうつるものを見逃さぬ努力をなすに急で、つい、自分の身近に立つ一人物の小説中における役割を軽く扱つてしまつたのではないかと思ふ。これが逆になるともつとすばらしいものになつたにちがひない。
「こけし」の作者も、しつかりした天分をもつてゐるやうに思はれる。かういふ作家の態度は、非常に日本的で、しかも、消極的には立派なのだが、探究の力になにか未来性が乏しいやうな気がして、すこし物足りない。
「原色の街」は、若い作家のある時代の告白といふやうな意味で興味をもつて読んだ。鋭さもあり、豊かな感性のひらめきもみえ、有望な作家にはちがひないが、この一作だけでは、視野のひろがりを限定する危険なきざしが感じられ、私は次の作でその杞憂を一掃したい。
 他の諸作については、今、べつに言ふことはない。



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