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十年後の映画界
じゅうねんごのえいがかい
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「アンドロギュノスの裔」 薔薇十字社
1970(昭和45)年9月1日
初出「新青年」博文館、1929(昭和4)年1月
入力者森下祐行
校正者もりみつじゅんじ、土屋隆
公開 / 更新2008-11-16 / 2014-09-21
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 一千九百三十九年一月×日
 街裏の酒場「騒音と煙」の一隅に於て、酔っぱらいの私がやはり酔っぱらいのオング君を、十年振りに見出したと思いたまえ。オング君は、一昔前と変らぬリボンをネクタイに結んだ懐しい姿で、赤ラベルの安三鞭酒を煽りながら、私に呼びかけたのである。
『やあ、新年お目出度う。……久しくお遇いしませんでしたが、髭なんぞ生やして、随分お年を召されたようですね。今何をしておいでですか? そう、やはり市役所の方へお勤めなのですか? 奥さんは、今度こそ、もうおもちでしょうな? それはそれは。……で、僕ですか? 僕は活動写真業です。ほら、お互に末だあまり年をとり過ぎてしまわなかった頃、港の裏山の草っ原に寝ころんで計画しあったではありませんか。青空の中に翩翻として橙色の旗が翻っているマキアベリイ理想映画会社について。それを今度僕がたった一人で実現したのですよ。嘘だと思うなら、近々お天気のいい日にでも散歩がてらいらっして下さい。港の裏山には、我々が曾て空想した通りの、橙色の旗が翩翻として青空に翻っています。……』
 もう不惑に近く、海豹のように無口になってしまった私に向かって、彼は十年前と少しも変らぬ雄弁を以て語るのであった。
『君はその時分は一方ならぬ映画ファンで、何時でも僕に嘆いていたのを、僕はよく憶えていますよ。……今時の映画と来たら、単なる機械製産品以外の何者でもあり得ない。それに映画批評家たちの眼目とする映画の価値はひたすらカメラワアクに依って決定されるスピード第一、アイモの移動、云々。映画の内容は? 内容とは筋ではない、映画が若しも如何なる意味に於てか芸術で有り得るとするならば、その芸術自身の姿だが、そんなものは全く蔑にされ忘れられてしまっているではないか、と。……僕は常に君のそう云う意見に賛成していました。それで僕はその後いろいろなお互の事情で会いそびれてしまってからも、この不幸な芸術の正系を守るためにマキアベリイ理想映画撮影所を建設し度いと心を砕いていました。ところが、喜んで下さい、今度到頭父が亡くなって、その遺産三千万円と云うものが全部僕のものとなったのですよ。僕は自分の財産の銀行利息だけでマキアベリイ撮影所を経営して行くことが出来るのです。つまり、一年に百万乃至百五十万円の費用をかけて、丸損したところで、僕の家産の傾く憂は更にないわけです。今や、我がマキアベリイ映画にあらゆる興業政策を無視しても差し閊えないのです。ああ、何と永い間の夢でしたろう……。
『製作映画の種類ですか?――ところで、君は近頃やはり昔のような映画ファンですか? ほう、十年から御覧にならないのですか? いやいや、それも決して無理とは申されますまい。未だ十年前の方がましでした。この頃の愚劣さ加減と来てはお話の外です。それに、一昔前のような音のない活動写真は極めて稀で、殆ど全部…

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