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梅若七兵衛
うめわかしちべえ
作品ID4488
著者三遊亭 円朝
文字遣い新字新仮名
底本 「圓朝全集 巻の三」 近代文芸資料複刻叢書、世界文庫
1963(昭和38)年8月10日
入力者小林繁雄
校正者門田裕志
公開 / 更新2003-11-26 / 2014-09-18
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 引続きまして、梅若七兵衞と申す古いお話を一席申上げます。えゝ此の梅若七兵衞という人は、能役者の内狂言師でございまして、芝新銭座に居りました。能の方は稽古のむずかしいもので、尤も狂言の方でも釣狐などと申すと、三日も前から腰をかゞめている稽古をして居ませんければ、その当日に狂言が出来んという。それでも勤めますと後二三日は身体が利かんくらいだという、余程稽古のむずかしいものと見えます。許し物と云って、其の中に口伝物が数々ございます。以前は名人が多かったものでございます。觀世善九郎という人が鼓を打ちますと、台所の銅壺の蓋がかたりと持上り、或は屋根の瓦がばら/\/\と落ちたという、それが為瓦胴という銘が下りたという事を申しますが、この七兵衞という人は至って無慾な人でございます。只宅にばかり居まして伎の事のみを考えて居りますから貯えとてもありません。お大名から呼びに来ても往きません。贔屓のお屋敷から迎いを受けても参りません。其の癖随分贅沢を致しますから段々貧に迫りますので、御新造が心配をいたします。なれども当人は平気で、口の内で謡をうたい、或はふいと床から起上って足踏をいたして、ぐるりと廻って、戸棚の前へぴたりと坐ったり何か変なことをいたし、まるで狂人じみて居ります。ちょうど歳暮のことで、
内儀「旦那え/\」
七「えゝ」
内儀「貴方には困りますね」
七「何ぞというとお前は困るとお云いだが何が困ります」
内儀「何が困るたって、あなた此様に貧乏になりきりまして、実に世間体も恥かしい事で、斯様な裏長屋へ入って、あなたは平気でいらっしゃるけれども、明日食べますお米を買って炊くことが出来ませんよ」
七「出来ないって、何うも仕方がない、お米が天から授からないので」
内儀「そんな事を云っていらしっては困ります、何処へでも忠実にお歩きあそばせば、御贔屓のお方もいかいこと有りまして来い/\と仰しゃるのにお出でにもならず、実に困ります、殊に日外中度々お手紙をよこして下すった番町の石川様にもお気の毒様で、食べるお米が無くっても、あなたは心柄で宜しゅうございましょうが、私は実に困ります」
七「困ったって、私は人の家へ往ってお辞儀をするのは嫌いだもの、高貴の人の前で口をきくのが厭だ、気が詰って厭な事だ、お大名方の御前へ出ると盃を下すったり、我儘な変なことを云うから其れが厭で、私は宅に引込んでゝ何処へも往かない、それで悪ければ仕様がない」
内儀「仕様がないたって、あなた何へいらっしゃいましよ、あの石川様へお歳暮だって入らっしゃると、いつでも貴方に千疋ぐらい御祝儀を下さるじゃアありませんか」
七「他人のものを当にしちゃアいかん、他人のものを当にして物を貰うという心が一体賤しいじゃアないか」
内儀「賤しいたって貴方、お米を買うことが出来ませんよ、今日も米櫃を払って、お粥にして上げましたので」
七「そ…

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