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岡田君のこと
おかだくんのこと
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集28」 岩波書店
1992(平成4)年6月17日
初出「第二回岡田糓滞仏油絵展目録」
入力者門田裕志
校正者noriko saito
公開 / 更新2011-03-31 / 2014-09-16
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)
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本文より


 巴里で岡田君と別れてから、もう十二三年になる。彼はその後、南フランスのゴオドといふ海岸へ移り住み、まつたく土地の人になつてしまつてゐるらしい。
 巴里時代には、お互に貧乏であつたが、時とすると彼はその貧乏振りで流石の僕を感嘆させたものである。青山熊治君にも、やつぱりさういふところがあつた。しかし、岡田君は何時でも紳士然としてゐて、放浪者の惨めさを何処にもみせない一種の意地をもつてゐた。
 彼は、素朴で剛毅な魂をもつてゐる、国際的な生活に慣れ親しむ一方、日本人としての矜りを失つてゐない。彼くらゐ西洋人の前で堂々と振舞ふ人間は、日本人の中には少いと思ふ。それが無愛想でも傲慢でもなく、彼と話をして、ジヤンチイだと感じない西洋人はゐないくらゐだから、これこそ真に国粋的な人物としてわれわれは意を強うするに足るのである。
 かういふ彼が、画家としてどんな仕事をしてゐるか、一度、故国の人々は是非観ておかなければならぬ。
 一昨年、同じ画廊でさゝやかな個展をやつたが、世話役の私が不慣れで、宣伝も思はしくできなかつたに拘はらず、相当の成績を挙げ得たのは、素人の眼をも十分楽しませる率直な、健康な、本格的な美の要素を、彼の絵が備へてゐるからだと思ふ。
 日本人の生活様式の中では、油絵が往々、その雰囲気になじまない憾みがあるのに、彼の絵は不思議に、茶の間や、床の間づきの座敷にしつくりと落ちつくところをみると、芸術品には、材料や技術を超越する精神のあることをしみじみ感じさせられるのである。



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