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本州横断 癇癪徒歩旅行
ほんしゅうおうだん かんしゃくとほりょこう
作品ID449
著者押川 春浪
文字遣い新字新仮名
底本 「〔天狗倶楽部〕快傑伝 ――元気と正義の男たち――」 朝日ソノラマ
1993(平成5)年8月30日
初出「冐險世界 第四卷第拾貳號」博文館、1911(明治44)年9月1日
入力者H.KoBaYaShi
校正者伊藤時也
公開 / 更新1999-11-30 / 2017-12-17
長さの目安約 47 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

不思議の血=懦弱と欲張=髯将軍の一喝=技手の惨死=狡猾船頭=盆踊り見物=弱い剛力=登山競走=天狗の面=天幕の火事=廃殿の一夜=山頂の地震=剛力の逃亡=焼酎の祟=一里の徒競走=とんだ宿屋

    (一)昼寝罵倒

 この奮励努力すべき世の中で、ゴロゴロ昼寝などする馬鹿があるかッ! 暑い暑いと凹垂れるごときは意気地無しの骨頂じゃ。夏が暑くなければそれこそ大変! 米も出来ず、果実も実らず、万事尽く生色を失う事となる。夏の暑いのがそれほど嫌な奴は、勝手に海中へでも飛込んで死ぬがよい。今や狭い地球上――ことにこの狭い日本では、碌でもない人間が殖え過ぎて甚だ困っている。怠惰者や意気地無しがドシドシ死んでしまえば、穀潰しの減るだけでも国家の為に幸福かも知れぬ。
 吾党は大いに夏を愛する。暑ければ暑い程鋭気に満ちて来る。やれやれ、何か面白い事をやってくれようと、そこで企てたのが本州横断徒歩旅行! もちろん亜弗利加内地旅行だの、両極探検だのに比すれば、まるで猫の額を蚤がマゴついているようなものであるが、それでも、口をアングリ開けて昼寝をしているよりは、千倍も万倍も愉快に相違ない。
 出発は八月十日、同行は差当り五人、蛮カラ画伯小杉未醒子、髯の早大応援将軍吉岡信敬子、日曜画報写真技師木川専介子、本紙記者井沢衣水子、それに病気揚句の吾輩である。吾輩は腹式呼吸と実験から得た心身強健法とで、漸く病気の全快したばかりのところへ、要務が山積しているので、実は徒歩発足地の水戸まで一行を見送り、そこで御免を蒙る積りであったが、さて水戸まで行ってみると、オイソレと逃げる訳にも参らず、とうとう牛に曳かれて八溝山の天険を踰え、九尾の狐の化けた那須野ヶ原まで、テクテクお伴をする事に相成った。

    (二)奇異の血汐

 徒歩出発地は前にいう太平洋沿岸方面の常州水戸で、到着地は日本海沿岸の越後国直江津の予定。足跡は常陸、磐城、上野、下野、信濃、越後の六ヶ国に亘り、行程約百五十里、旅行日数二週間内外、なるべく人跡絶えたる深山を踏破して、地理歴史以外に、変った事を見聞し、変った旅行をしてみようというのである。
 ところが東都出発の数日以前から、殆んど毎日のように暴風大雨で、各地水害の飛報は頻々として来る。ことに出発の前夜は、烈風甍を飛ばし、豪雨石を転ばし、勢で、東都下町方面も多く水に浸され、この模様では今回の旅行も至極困難であろうと想像しているところへ、ここに今考えても理由の分からぬ事があった。というのは他でもない、その夜の事である。本誌お馴染の断水坊、暴風雨を冒して遊びに来り、夜遅くまで、二人で将棋をパチクリパチクリやっておったが、時刻は夜半の零時か零時半頃であったろう、吾輩はなんでも香車か桂馬をばパチリッと盤面に打下そうと手を伸ばした途端である。不意に何か吾輩の食指の中央にポタリと落ちた冷たいも…

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