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兎さんの本屋とリスの先生
うさきぎさんのほんやとリスのせんせい
作品ID44978
著者村山 籌子
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本児童文学大系 第二六巻」 ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日
初出「子供之友」婦人之友社、1932(昭和7)年11月
入力者菅野朋子
校正者noriko saito
公開 / 更新2011-06-18 / 2014-09-16
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 あるところに大変そそつかしい本屋さんがありました。兎さんです。ある日、お店へ本が来ましたので、フロツクコートを着て、鼻眼鏡をかけて、ステツキを持つて、その本を小脇にかかへて(人間から見るとおかしいですが、兎の本屋さんはこんなものです)売りに出かけました。
 森の入口で、リスさんに会ひました。大変悧口さうなひげを生やしたリスさんですから、本を買つてくれるだらうと思つて「リスさん、本を買つて下さい。私はりつぱな本屋さんです」といひました。リスさんは、兎さんがフロツクコートといふ服を着て、鼻眼鏡をかけてゐるし、それにステツキをついてゐるので、成程りつぱな本屋さんだと思つて「僕は医科大学の先生です。本を買ひます。今、お金を持つてゐませんから、家までついて来て下さい」といひました。
 兎さんは大よろこびで、リスさんの家へついて行きました。
 遠い/\お家なので、家へついた時はもう真くらな夜になつてしまひました。門口まで来たので、リスさんはお家へはいつて行つて、お金を持つて来て、兎さんにお払ひをしました。
 ところが、その時ちやうど六時が打つて、リスさんの村では、夕方の六時カツキリに電気がつくのです。電気がつきました。
 リスさんは今買つたばかりの御本を、大きな/\英語や、ドイツ語や、ロシア語の字引を積みあげてあるお机の上でひろげました。
 表紙には「尋常小学一年生読本」と書いてありました。
 リスさんは「僕は医科大学の先生だのに[#挿絵]」といつて、大変おこりました。そして兎さんをおつかけて行つてつつ返してやりました。兎さんは大変恥しくなつてかういひました。
「あなたはお子さんがありますか」
 リスさんは答へました。
「小学一年の子供がひとりあります」
「それでは、これをそのお子さんに上げて下さい。お金はいりません」といつて逃げ出しました。
 リスさんは兎さんが大変気の毒になつたので、あくる日、お金をとどけてやりました。
 兎さんは、ベツドの中でうん/\うなつてゐました。なぜといつて、兎さんは、昨夜あんまり急いで逃げたので、小さな川におつこちて、指の先を怪我したのです。
 リスさんはお医者さんでしたから、兎さんの指にヨードチンキを塗つてあげました。
 兎さんはリスさんと、それから大変仲よくして、新しい本が来ると、いつでも十銭くらゐづつ安くしてあげましたさうです。



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