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月謝の袋を失くしたあひるさん
げっしゃのふくろをなくしたあひるさん
作品ID44979
著者村山 籌子
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本児童文学大系 第二六巻」 ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日
初出「子供之友」婦人之友社、1932(昭和7)年12月
入力者菅野朋子
校正者noriko saito
公開 / 更新2011-06-18 / 2014-09-16
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 あひるさんは泣きながら学校から帰つて来て、お母さんに申しました。
「お母さん、先生から頂いた月謝の袋を落したの。先生に叱られるといや」
 お母さんはおつしやいました。
「あひるさんや、カバンの中をしらべて見て、なかつたら、明日、先生によくお話しをなさい」
 そしてお八つの牛乳を下さいました。けれどもあひるさんは一口も飲みません。
「あひるさんや、さあ、お飲みなさい。心配をしないで。とてもあたたかくて、うまい牛乳ですよ」と、お母さんは、あひるさんの口に牛乳の瓶をおしつけました。すると、あひるさんは、牛乳の瓶をはねとばしましたので、折角の牛乳が半分こぼれました。
 そして、あひるさんはベツドの中へもぐり込んで、
「お母さん、今すぐ月謝の袋を見つけて下さい」と、わあ/\泣きわめきました。お母さんは家中をさがしましたが、月謝の袋は出て来ませんでした。
 あひるさんはベツドの中で、涙でグツシヨリになつて、
「ああ、私が月謝の袋屋さんだつたら! 私はどんなに幸だつたらう。私はこんなに心配しないでもすんだのに。そして私は月謝の袋をなくして、心配で心配で泣いてゐる世界中の子供に、一枚づつ、ただで上げるのに!」と思ひました。けれども、あひるさんは月謝の袋屋さんではありません。ほんとにかあいさうなあひるさんです。
 ところが、その晩は大変よいお月夜でした。学校の先生の烏さんは、散歩に出かけて、あひるさんの家の前を通りかかりました。
 あひるさんのお母さんは先生に申しました。
「先生、うちのあひるさんは月謝の袋を落したといつて、泣いてばかりゐて、牛乳も飲みません」
 烏先生は、ベツドの中へもぐつてしまつたあひるさんを、ベツドから引出して申しました。
「月謝の袋は明日あげますから、早く牛乳をお飲みなさい」
 そこであひるさんは、やつと泣くのがとまつて、こんどはそれは/\うれしさうに、ニコ/\と牛乳を二本半と、御飯を四杯もたべて、ベツドの中へはいつて、明日の朝まで、グツスリと眠りました。安心して下さい。



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