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利根川の一夜
とねがわのいちや
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「長塚節全集 第二巻」 春陽堂書店
1977(昭和52)年1月31日
初出「馬醉木 第拾號」1904(明治37)年4月5日
入力者林幸雄
校正者今井忠夫
公開 / 更新2004-04-08 / 2014-09-18
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 叔父の案内で利根川の鮭捕を見に行くことになつた、晩飯が濟んで勝手元もひつそりとした頃もうよからうといふので四人で出掛けた、
 叔父は小さな包を背負つて提灯をさげる、それから河は寒いと可かないからと叔母が出して呉れた二枚のどてらを、うしろのちやんと呼ばれて居る五十格恰の男が引つ背負つてお供をする、これは提灯と二升樽とをさげる、從弟の十になる兒と自分とは手ぶらで蹤いて行く、
 荷物を背負つた二人の樣子が才藏か何かのやうだといふので下婢供が頻りに笑ひこけるのである、うらのとぼ口を出て、落葉した梅の樹の下を木戸口へ出る頃までそれが聞えた、
 木戸を出ると桑畑のよせのやうな小徑をうねり/\行く、提灯の導く儘に唯足許に心を配りながら二丁ばかりも來たと思ふと、坂垂れになつた大きな往來へ出た、この間の降りつゞきなのでよく/\のぬかるみである、坂を下りて四五軒ばかりならんだ家のところを出拔けると、闇いは闇いがひろ/″\として來た、道は一際ひどい泥濘で、はじの方の漸く下駄だけ位に人の踏んだ足跡を探つては行くのである、道の脇はぢき溝になつてあるので、一歩誤れば墜ち相である、提灯二つがたよりで辿つて行つたがとう/\動きのとれないぬかるみへ出つくはした、叔父と自分とは思ひ切つて跣足になつた、從弟はうらのちやんが抱いて越えた、これから先はもつとひどいだらうといひながら行くと案外ぬかるみも少ないので馬鹿な目に逢つて仕舞つたと大笑ひをしながら、それからは急ぎ足に進んだ、四五丁もきたと思ふ頃利根川の渡しのところへついた、汪洋たる水は淀んで居るかと思ふ程に靜かである、藁葺の船頭小屋は薄明りがさして居るが話聲も聞えない、叔父と自分とは提げて來た下駄を置いて足を洗つて居るうちに、うしろのちやんの提灯は遙に川下の方へ行つた、やがて自分等もあとを追つて土手の上を歩いて行く、末枯の蓼の穗や背丈にも延びた唐人草がザラ/\と提灯にさはる、この土手のすぐ内側は畑でずつとさきはみんな原野になつて居る、土手といつてもこんなに低いのだから水が出るとすぐに越し相になる、土手を水が越すと耕地はみんな洗はれて仕舞ふのでこんなに土俵を積んで置くのだといふやうなことを叔父から聞きつゝ行くうちに、さきの提灯はぢき間近になつた、そこに止まつて居たのである、サツパ舟が一艘岸へ漕ぎ付けんとしつゝある、うらのちやんと舟とで何か話をして居る、それと同時にボー/\となまぬるいやうな汽笛を鳴らしながら通運丸が上つて來た、舳の灯の青い光や赤い光が長い影を波の上に引つ張つてさうしてバツサ/\と水を掻き分けながら、牛のやうに遲行しつゝある、岸へついたサツパ舟は艫のところへぐつと棹を突つ立てた儘とまつて居る、「引き波がえら來るかんな下手にすつと波くふかんなと舟でいつた、汽船はずん/\上つて行くのであるが、引き波はなか/\こない、岸を十間ばかりも離…

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