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エミリアンの旅
エミリアンのたび
作品ID45060
著者豊島 与志雄
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本児童文学大系 第十六巻」 ほるぷ出版
1977(昭和52)年11月20日
初出「少年倶楽部」講談社、1932(昭和7)年7月~12月
入力者菅野朋子
校正者門田裕志
公開 / 更新2013-04-29 / 2014-09-16
長さの目安約 57 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ヨーロッパから西アジヤにかけて、方々にちらばつてる一つの民族があります。何かの職業について、一つ処に住居を定めてる者もありますが、多くは、各地をわたり歩いてる流浪の者です。それで、数は少いけれど、到るところに見かけられます。彼等は自分でロマ人だとかコラ人だとかいつてゐますが、フランスではボヘミアンと呼ばれ、イタリヤではツンガリーと呼ばれ、イギリスではジプシーと呼ばれてゐます。――日本には、イギリス語のジプシーといふのが一番よく知られてゐます。
 そのジプシーのうちに、エミリアンといふ少年がありました。両親に死に別れて、たつた一人で、方々をわたり歩いてゐました。どこか気に入つたところに住居を定めるつもりでしたが、その気に入つたところがなかなか見当りませんので、のんきな旅をつづけてるのでした。荷物といつては、美しい縞リスのはいつた小さな籠と、バイオリンだけでした。時には旅芸人の仲間にはいつたり、時には何か臨時の仕事にやとはれたりして、そして大抵は一人で、リスに芸をさしたりバイオリンをひいたりしてお金をもらひ、あてもなく旅をしてゐました。りこうで、のんきで、朗かな少年でした。
 この少年エミリアンの旅の話を少し致しませう――

一 盗賊に出あふ話



 フランスの東部の山の中の小さな町に、市がたつて、近在から農夫たちがたくさん集り、賑かな一日が暮れた、その晩のことです。エミリアンは広場で、縞リスに車廻しの芸をさしたり、バイオリンをひいたりして、だいぶお金をまうけて、町はづれの宿屋にとまりました。宿屋にはおほぜい客がありましたし、彼は少年でしたから、二階の隅の物置みたいな室に入れられました。
 夜なかすぎになると、市の賑ひにみんな疲れて、農夫たちは帰つていき、町人たちは寝こみました。エミリアンもぐつすり眠りました。
 そのしいんとしたなかで、夜明近い頃、三人の盗賊が宿屋をおそひました。市の後ですから、宿屋にはたくさんお金がたまつてゐますし、お金をもつた客もとまつてゐますので、それをめざしたのです。
 三人の盗賊は、めいめい大きなピストルをもつて、裏口の戸をこじあけて中にはいり、先づ雇人たちを縛りあげ、次に主人夫婦を縛りあげて、お金をすつかり取上げました。大きなピストルをさしつけておどかされたので、誰も手向ひができず、声を立てる者さへありませんでした。それから盗賊は、合鍵をださせて、泊り客の室を順々におそひ、みんな縛りあげて、お金を奪ひ取りました。
 一番終が、エミリアンの室でした。
 ぐつすり眠つてゐたエミリアンが、ゆりおこされて、眼をあけると、龕燈の光をぱつとさしつけられてゐました。びつくりして、起き上つてみますと、あらくれた強さうな大きな男が三人、大きなピストルをさしむけてゐます。
「なんだ、子供か」と一人の男がいひました。「だが、金を持つてるだらう。出し…

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