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百姓の足、坊さんの足
ひゃくしょうのあし、ぼうさんのあし
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本児童文学大系 第二八巻」 ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日
初出「花のき村と盗人たち」帝国教育会出版部、1943(昭和18)年9月
入力者菅野朋子
校正者小林繁雄
公開 / 更新2012-12-22 / 2014-09-16
長さの目安約 30 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



 十二月十二日に貧しい百姓の菊次さんは、雲華寺の和尚さんが米初穂をあつめて廻るのにお供していきました。
 米初穂といふのは、ことしの秋とれた新しいお米のことで、村の百姓達はそれを少しづつお寺にささげて、仏様にのちの世のことを頼んだのであります。
 和尚さんが村の家々の戸口に立つて、短い経を読むと、百姓達はもうちやんと知つてゐて、新しい米を枡に入れて奥から出て来ます。そのお米を受取つて袋に入れ、ふごで、になつていくのがお供の菊次さんの役目でありました。
 さて、その年の秋はお米が豊作でしたので、百姓達はをしまずに、たくさんお初穂を出しました。で、ぢき二つの袋はいつぱいになり、そのつど菊次さんは、お寺のお庫裡の米櫃まで、お米をあけにいかねばなりませんでした。日暮までに菊次さんは、五へん通ひました。そして、もうすぐ、また袋がいつぱいになるといふところで、日も暮れ、ちやうど村の家も終つてしまひました。
「もう、日が暮れたが、烏谷の方はどうしようか。」
と和尚さんが、首をかしげながらいひました。烏谷といふのは、十五町くらゐはなれた谷の底の部落で、百姓の家が五軒あるきりでした。けれど烏谷の百姓達はたいそう、うまい酒をつくつて持つてゐたのであります。
「もう米もだいぶ、たまつたやうだが、烏谷の方はどうしようか。」
と和尚さんがまたいひました。
「さアー。」
とお酒の嫌ひでない菊次さんは、ながくひつぱるやうに答へました。
「烏谷にいつて来ると帰りが夜になつてしまふが、行つたものか、どうしたものか。」
と、やはりお酒の嫌ひでない和尚さんは、数珠をつまぐりながら三度いひました。
「さァ[#「さァ」はママ]――。」
と菊次さんは、まへよりながくひつぱつて答へました。
「ええ、ままよ、行くとしよう。菊次さ、お前、いやなら、一人で戻らつしやい。」
といつて和尚さんは谷の方へ歩き出しました。
「どうしてわしが戻りませう。和尚さんのお供なら、地獄の釜の中でも、いやぢやございません。」
と菊次さんはいひながら、あわてて和尚さんのあとについていきました。
 烏谷にいきつくと、はたしてそこの一軒の百姓家では、おいしい酒を樽から一升枡についで来て、御馳走してくれました。
 和尚さんは、
「酒好きに酒をのませる、こんなくどくはありませぬぞや。これがすなはち仏の説きたまふ慈悲ぢや。」
などと、お説教みたいなことをいつたり、
「この酒は西の泉の水で仕込んだか、東の泉の水で仕込んだか。なに、西の泉の水で? それそれ、うまいはずぢや。あの西の泉の水はただ飲んでもうまいでのう。」
などと、ほめたりして、たくさんのみました。
 菊次さんは菊次さんで、閾に腰をおろし、手拭を両手でしぼりながら、
「いえもう、たくさんで、わしはお供でござんすから。」
といつたり、
「いや、和尚さんは荷物がないから、いくら頂い…

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