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狐に化された話
きつねにばかされたはなし
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本児童文学大系 第九巻」 ほるぷ出版
1977(昭和52)年11月20日
入力者菅野朋子
校正者noriko saito
公開 / 更新2011-11-20 / 2014-09-16
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 枕もとの障子に笹の葉のかげがうつりました。
「太郎や、お月さまが出ましたよ。」
とおばあさんが云ひました。太郎さんは顔をあげて、おもしろく模様形をした笹の葉のかげを、しばらく見てゐましたが、
「障子をあけて見ようかね、おばあさん。」
「いゝえ、外は寒いからこのまゝがいゝよ。」
 秋の夜は早く更けてこほろぎの声がほそ/″\とひゞいてゐます。太郎さんとおばあさんは、一つ夜具の中に枕をならべて寝て居るのであります。障子にさす月あかりが、ほんのりと白く二人の顔を浮き出すやうに見せてゐます。やがて太郎さんは、
「おばあさん、何か話をして!」
「まあお待ち、今考へてゐるところだよ。」
とおばあさんは障子の方へ向けてゐた目を太郎さんの顔へ移し、
「今夜はちつと恐い話をして聞かせようぞ。」
「恐い話ならなほおもしろいや。」
「よし/\それでは狐に化された話をせう。」
「狐に? 誰が化されたの」
「おばあさんが。」
「おばあさんが化された? ほんたうなの?」
「ほんたうとも、まあお聞き。」
 それからおばあさんは、つぎのやうな話をなさいました。

 それは太郎さんが生れるずつと前、おばあさんがまだ若い頃のことであります。
「丁度今夜のやうにお月さまのあかるい晩、お湯のかへり道で化されたのだよ。」とおばあさんは云ひました。
 お湯といふのは、太郎さんの村には田圃中から自然に湧き出る湯があつて、それに粗末な小屋掛けをして村の人たちは入りに行くのでありました。農家のことですから昼のうちは野良仕事がいそがしい。お夕飯をすましてからみな呼びかはして入りに行きます。おばあさん達女づれは、大てい夜おそく寝がけに行くことにしてゐました。
 その晩は近所の誰彼さそひあはせて五六人づれで出かけました。夜ふけのことでお湯はもうすき/″\してゐました。おばあさん達はゆつくりと身体をのばして湯槽にひたりました。湧き出る湯の量が多いから、町の洗湯のやうに垢汚れのしてゐることはありません。こぼ/\と湯尻の落ちる音からして、いかにも新らしい匂やかなこゝろもちです。
 湯殿の天井には行燈がつるしてありますが、その晩は窓からさしこむ月の光の方があかるい位でした。おばあさん達は世間話などしながら思はず長湯をして、お湯を出た時は大分夜がふけてゐました。空にはお月さまが高く登つてをります。田圃の稲は色よく熟して、夜露にしつとりと濡れて、何ともいへぬ静かな深い秋のながめであります。
 お湯から村までは十町ばかりの道のりでした。その間、石ころの多い一本道が田と田の間をまがりくねつて続いてをります。道は幅二三尺しかありませんから、一人が先へ立ち、あとへ/\とつづいて行くのでした。おばあさん達は、お湯の中でずゐぶんお饒舌をしたあとなので、皆黙りこんでこつ/\歩いて行きました。
 と、道の中ほどまで来ました時、ゴウ/\とはげ…

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