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竜宮の犬
りゅうぐうのいぬ
作品ID45157
著者宮原 晃一郎
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本児童文学大系 第一一巻」 ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日
入力者tatsuki
校正者鈴木厚司
公開 / 更新2005-09-15 / 2014-09-18
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 或田舎に貧乏な爺さんと、婆さんとが二人きりで暮してをりました。耕す畑も田もないから、仕方なく爺さんは楊枝、歯磨き、洗粉などを行商して、いくらかのお銭を取り、婆さんは他人の洗濯や針仕事を頼まれて、さびしい暮しをつゞけてをりました。
 すると或年の秋も末になり、紅葉が綺麗に色づき、柿の実があかく熟れて、風の寒い夕方、爺さんが商売から帰り途に、多勢の人が集まつて、何やら声高に罵り騒いでをりますから、何だらうかと一寸覗いてみますと、一羽の年寄つた牝鶴が、すつかり羽をいためて其処に降りてゐるのでした。集つた人達はその鶴を捕つてやらうとしましたが、皆めい/\自分こそは真先に見付けたのだから、自分が捕るのが当然だと言ひ張つて、果しがつかず、ガヤ/\と騒いでをるのでした。爺さんは慈悲心の深い人でしたから、これを見ると可哀さうで堪らなくなりました。そこで爺さんは人混みを押分けて前に出て申しました――
「マア/\皆さん、ちよつと私のいふことを聞いて下さい。一体鶴は千年の齢をもつといふものですから、この鶴は未だ/\永く生きのびることが出来ます。それだのに、あなたがたがこれを捕り、殺して喰べたところで、たゞ一時おいしいと思ふだけで、何にもなりません。又これを他人に売つたところが大した金にもなりません。そして買つた人は矢張りそれを殺して喰べるでせう。そんな殺生をするよりか、これを助けて、逃がしてやつた方が、立派な功徳になります。どうぞこの鶴は私に売つて下さい。私はたんとお金も持つてはゐませんけれど、今日の売り溜めを皆あげますから、それを、あなたがた、この鶴を見付けた人達の間で分けて、鶴は私に下さい。若し又それでもお銭が足りないなら明日の夕方まで待つて下さい。」
 爺さんが言葉を尽して説くものですから、その人達も納得して鶴を爺さんに売つてしまひました。
 爺さんは「これは善いことをした。」と、嬉しく思ひながら、その鶴をもつて家へ帰りました。
「婆さん/\。今帰つた。今日は売り溜のお銭は一文も持つて来なかつたが、その代り迚も幾百両だしても買へない善いお土産をもつて来た。何だか当てゝみなさい。」
 爺さんは鶴を入れた風呂敷の包みをとかずに、かう言ひました。
「さあ何だらうね。」と、婆さんは小首を傾けました。「私にはさつぱり見当がつかないよ。」
「これさ、この鶴だよ。」
 爺さんは風呂敷の中から、羽をいためたよぼ/\の鶴をそこへ出しました。鶴は驚いたやうな眼つきでそこらを見廻しました。
 婆さんは思はずアッと叫びました。
「オヤ/\爺さん、お前さんはマア気でもちがやしないか。鶴なんかを持つて来てさ。」
 爺さんはニコ/\して、
「気なんか少しもちがつてはゐない。これにはわけのあることだ。」と、それから自分が行きがかりにその鶴を救つて来たことを詳しく話してきかせましたので、婆さんも同じく慈悲…

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