えあ草紙・青空図書館 - 作品カード


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動く海底
うごくかいてい
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本児童文学大系 第一一巻」 ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日
初出「少年倶楽部」1932(昭和7)年7月
入力者tatsuki
校正者鈴木厚司
公開 / 更新2006-04-12 / 2014-09-18
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

    一

 オーストラリヤの大陸近くに、木曜島といふ真珠貝の沢山取れる有名な島があります。そこには何百人といふ日本人の潜水夫が貝をとつてゐます。
 今は昔、そこにゐる潜水夫のうちで、太海今太郎といふ少年潜水夫がゐました。この人は貝をとる潜水夫のうちでも、名人とよばれた太海三之助の一人息子でありましたが、海亀を助けてやつて、海亀に助けられたところから浦島といふあだ名がついて、後には浦島今太郎といふ通名になつて、誰も本姓太海を呼ばなくなりました。
 これから、その冒険談を聞くことにしませう。

 今太郎君が十五のときでした。
 ある日、お父さんの採貝艇(潜水夫をのせて真珠貝をとりにゆく船)に乗り、沖へ出て、空気を潜水夫へ送るポンプをせつせと動かしてゐると、すぐ船のそばへ、チヤブ台ほどの大きさの海亀が一匹浮き上りました。船の者共は面白半分鉤をかけて、引上げてしまひました。
「こいつの肉はうまいから、今夜一ぱい飲めるぞ」と、水夫の一人がにこにこして言ひました。
「今太郎さん」と、も一人の水夫はポンプを動かしながら言ひました。「すばらしく、おいしいスープを拵へて、君にも、うんと喰べさしてあげるよ」
 今太郎君は船板の上に、仰向けにひつくりかへつてゐる亀を、珍しさうに見てゐましたが、これが今夜喰べられてしまふのかと思ふと、何だかかはいさうなやうな気がしました。そして浦島太郎の昔話を思出しました。
 そのうち、水底にもぐつてゐたお父さんが真珠貝をとつて、上つて来ました。潜水兜をまづぬぐと、すぐ大きな亀に目をつけました。
「フン、えらいものを捕つたね。どうするんだい」と、お父さんがきゝました。
「どうするつて」と、さきの水夫が言ひました。「そりや親方勿論、喰べるにきまつてゐるぢやありませんか」
 すると、今太郎君が横合から言ひました。
「ねえ、お父さん、かはいさうですよ。放しておやんなさいよ。だつて、日本ぢや、漁師たちは、亀がとれるのは、大漁のしらせだといつて、お酒を飲まして、放してやるつていふぢやありませんか」
「いや、それはいけない」と、別の水夫が言ひました。「日本の漁師なんて迷信が深いから、そんな馬鹿げたことをいふのだ。亀なんて、こちとら真珠とりにや、邪魔にこそなれ、ちつとも益にやならない。それよりもスープにしたり、テキにしたりして、喰つた方がいゝ」
 お父さんはにこ/\笑つて、双方の言分を聞いてゐましたが、やがて、
「ぢや、かうしよう、お前たちには、わしから一人に一両づゝやるから、亀は今太郎の言ふやうに、放してやつてくれ」と、言ひました。
「ハハハ、これや、とんだ浦島太郎――ぢやない、浦島今太郎だね」と、水夫は笑ひながら、仰向けになつて、手足をもがもがさしてゐる亀を、そのまま、ずる/\とひきずつて、海の中へ、ぼちやんと投込みました。亀は水に入ると、すぐ自由を取も…

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