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馬鹿七
ばかしち
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本児童文学大系 第一一巻」 ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日
初出「金の船」キンノツノ社、1919(大正8)年11月
入力者tatsuki
校正者田中敬三
公開 / 更新2007-04-11 / 2014-09-21
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

    一
 紀州の山奥に、狸山といふ高い山がありました。其所には、大きな樫だの、樟だのが生え繁つてゐる、昼でも薄暗い、気味の悪い森がありました。森の中には百穴といふのがありました。其の穴の中から、お腹の膨れた古狸が、夕方になると、百疋も二百疋も、ノソノソと這ひ出して来て、ポンポコ/\/\と腹鼓を打つて踊つたり跳ねたりするといふので、村の人達は皆な気味悪く思つて、昼でもその森の中へ入つて行くものはありませんでした。
 この村に、七郎兵衛といふ五十あまりの男がありました。七郎兵衛は少し馬鹿な男でしたから、村の人達は、馬鹿七、馬鹿七と呼んでゐました。七郎兵衛自身も、馬鹿七といはれて平気でゐました。
 この馬鹿七は平生から、狸山へ行つて一度その狸の腹鼓を聞いて見たいものだ、狸の踊る様子を見てやりたいものだと言つてゐましたが、或る日の夕暮に、たうとう思ひ切つてたゞ一人その森の中へ入つて行きました。
 馬鹿七は腰に山刀をさして、手には竹の杖を一本提げてゐました。そして段々、山を奥へ奥へと登つて行つて、大きな暗い/\森の中へ入つてしまひました。
「何と大きな樟の樹だなア、何と大きな樫の樹だなア。」と呆れながら、馬鹿七は真暗い森の中で木の根に腰をかけて、腹鼓の鳴るのを、今か/\と待つてゐました。けれども一時間待つても、二時間待つても、ちつとも狸は出て来ませんでした。で、馬鹿七はたうとう待草臥れて、ウト/\と其所へ寝てしまひました。
 暫くして、ふと、眼を覚して見ると、これはまア何といふ不思議なことでせう。馬鹿七の前には、可愛い/\小い狸の仔が、百疋も二百疋も、きちんと座つてゐました。しかもそれが皆なお行儀よく並んで、馬鹿七の方を一生懸命に見詰めてゐるじやアありませんか。馬鹿七は吃驚しましたから、腰の山刀をスラリと引抜いて、振廻しました。すると、その可愛い狸の仔の姿は掻消すやうに消えてしまひました。そして、森はまた元の真闇になりました。
 すると、馬鹿七は又、ぐう/\と鼾をかいて、寝てしまひました。暫くして眼を覚して見ますと、今度は大きな親狸が、まん円い膨れたお腹を、ずらりと並べて、百も二百も並んでゐるのです。そして皆な、小い棒切れを両手に持つて、今にもその太鼓を打ち出さうとしてゐるじやありませんか。それを見た馬鹿七は、躍り上つて、
「しめたぞ! 狸さん、早くその太鼓を打いて、聞かせてお呉れ!」と云つて、ニコニコ笑ひながら、竹の杖に縋つて伸び上つて見ますと、森の中一面に、大きな古狸が、何百何千となく座つてゐるのです。
「大変な狸だなア、今度は山刀を抜いて脅かしはしない。さア一つその腹鼓を打いて呉れ!」といつて、また木の根に腰を掛けると、古狸が一斉にポンポコ/\と腹鼓を打き始めました。すると最前何所かへ逃げた小い可愛い仔狸が、何所からかヒヨコヒヨコと出て来て、面白可笑しい手付…

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