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熊と猪
くまといのしし
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本児童文学大系 第一一巻」 ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日
初出「金の船」キンノツノ社、1919(大正8)年12月
入力者tatsuki
校正者田中敬三
公開 / 更新2007-04-08 / 2014-09-21
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

    一
 紀州の山奥に、佐次兵衛といふ炭焼がありました。五十の時、妻さんに死なれたので、たつた一人子の京内を伴れて、山の奥の奥に行つて、毎日々々木を伐つて、それを炭に焼いてゐました。或日の事京内は此んな事を言ひ出したのです。
「お父さん、俺アもう此んな山奥に居るのは嫌だ。今日から里へ帰る。」
「そんな馬鹿を言ふものぢやあ無い。お前が里へ出て行つたなら、俺は一人ぼつちになるぢやないか。」と言つて佐次兵衛は京内を叱りました。
「お父さんは一人でも宜いや、大人だもの。俺ア子供だから、里へ行つて皆なと鬼ごつこをして遊びたい。」
「そんな気儘を言ふものぢや無い。さ、私と一緒に木を伐りに行かう。」
 佐次兵衛は京内の手を取つて、引張つて行かうとしました。
「嫌だ、やだ! お父さんは一人で行け。俺は里へ遊びに行く!」と言つて京内はドン/\と、山路を麓の方へ駈けて行きました。
「おい、こりや、それは親不幸といふものだぞ!」
「不孝でもコーコーでも宜いや、里へ行つて遊ぶんだ。」
 京内は一生懸命に駈け出したので、佐次兵衛も捨てゝ置けず、お弁当を背負つたまゝ、パタ/\と其の後を追かけました。


    二
 山の上には、大きな熊が木の枝に臥床を作つて、其所で可愛い可愛い黒ちやん=人間なら赤ちやん=を育てゝ居ました。
「さ、オツパイ! オツパイお食り、賢いね黒ちやん。」
 熊のおツ母さんは黒ちやんの頭を舐めてやりました。
「オツパイ嫌よ。もつと/\旨しいもの頂戴な。」
「オツパイが一番旨しいのよ、ね、駄々を捏ねないで、さ、お食り……」
「嫌だつて云ふのに、オツパイなんか飲ませたら、おツ母さんの乳頸を噛み切つてやるぞ。」
 熊は黒ちやんでも、なか/\悪口は達者と見えます。
「アイタタ、まあひどいのネ此の児は。母ちやんのお乳から、こんなに血が出るぢやないの。」
 お母さんは、ちよいと睨む真似をしました。
「お乳は嫌、もつと/\旨しいもの頂戴。」
「そんな無理を、お言ひで無い。それは親不幸といふものです。」
「不幸でもコーコーでも宜いワ。もつと旨しいもの食べさしてお呉れ、え、おツ母さん。」
「仕様が無いね。此の子は、」とおツ母さんは暫く考へてゐましたが、
「坊やは何が好き? 蟻? 栗?」とたづねました。
「嫌だ/\、そんなもの皆な嫌だ、もつともつと甘くつて旨しいものが欲しい……」と、黒ちやんはいひました。
「困つた事を言ふのネ、あ、さう/\蟹……、蟹を食べた事があつて? あの赤アい爪のある、そうれ横に、ちよこ/\と這ふ……」と、お母さんは、また優しくいひました。
「食べた事無いワ、蟹なんて……そんな物旨しい? え、本当に旨しい?」
「えゝ/\、夫れは本当に旨しいのよ。これから谷川へ行つて、うんと捕つて来てあげるから、此所で温順しく待つておいで。」
「イヤ、イヤ、坊やも一緒に行く。…

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