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勇士ウ※[#小書き片仮名ヲ]ルター(実話)
ゆうしウォルター(じつわ)
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本児童文学大系 第一〇巻」 ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日
初出「赤い鳥」1927(昭和2)年11月~1928(昭和3)年1月
入力者tatsuki
校正者林幸雄
公開 / 更新2007-04-05 / 2014-09-21
長さの目安約 30 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

    一

 これは、こしらへた冒険談ではなく、全くほんたうの事実話ですから、そのつもりでお聞き下さい。
 今からちやうど二十年まへのことでした。或ときイギリスのシェフィールドといふ町の警察へ、一人の泥棒未遂の犯人があげられました。年のころ三十がッかうの、黒い大きな眼をした、背のごく低い男で、夜中に、或家の屋根裏の部屋へはいりこんだところをつかまつたのですが、唖を装つてゐるのか、ほんとに唖なのか、どんなに、おどかしても、だましても、てんで口をきゝません。現場をつかまへた刑事のいふところでは、この犯人は猫のやうに、すら/\と屋根裏までかけ上り、にげるのにも、大屋根の真上を、平地のやうに、かけとぶといふ、したゝかもので、この手ぎはでは、むろん前科もあるにちがひないのですが、何しろ耳も聞えず、口もきかないのですから、署でも手こずりました。
 で、ためしに、ほんたうの唖をつれて来て、手真似で対話をさせて見ましたが、犯人には、その手真似も一さい通じません。かゝり官はとう/\、その警察署附きのロバート・ホームスといふ牧師をよんで、やさしく、さとして見てもらふことにしました。
 犯人はたゞの人のやうに、きちんとした身なりをしてをり、相当に物わかりもよささうな顔つきをしてゐるのですが、ホームスさんが来て、いろ/\おだやかに話したり、さとしたりしても、やはり、何にも聞えないふりをして取合ひません。
 署では困りはてゝ、ともかく、そのまゝ留置場の一室へおしこんでおきました。
 ところが、看守人たちは、この唖に午飯をはこんでやるのをわすれてしまひました。それから、念入りに午後のお茶も夕飯までも、すつかりわすれてあてがひませんでした。
 すると、夜になつて唖は部屋の中で、ドタン、バタンとさわぎ出しました。その物音で看守人たちはそこに唖の泥棒がおしこめられてゐたことに、はじめて気がつきでもしたやうに、あわてゝバケツへ少しばかりの飲水を入れ、錫の水飲みをそへて持つていきました。
 唖は、手をふりあげたり口をあけたり、種々さま/″\の手ぶり手まねをして、そんな水なんぞが何になる、食べるものをくれろ、分らないのか、おい食べものだよ、といふ意味をくりかへし/\して見せました。しかし、ぼんやりぞろひの看守人たちには唖のすることが、ちつとも通じません。そのうちに、唖は、一人の看守に向つて、両手を寝台の方へぐいとつきつけました。看守は、寝台をわきへもつていけといふのだらうと合点して、その下にしいてある、ぼろけた、じゆうたんを、めくりとりました。唖はとう/\じれッたさまぎれに前後をわすれて、
「ちよッ、しやうのないばかだね。食ふものをもつて来い。かつゑてしまはァ。」と、どなりつけました。
 こんなことから、唖は、すつかりばけの皮をめくられ、警官のとりしらべにも一々答へをしなければならなくなりました…

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