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乞食の子
こじきのこ
作品ID45192
著者鈴木 三重吉
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本児童文学大系 第一〇巻」 ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日
「鈴木三重吉童話全集 第五巻」 文泉堂書店
1975(昭和50)年9月
初出「赤い鳥」1929(昭和4)年2月
入力者tatsuki
校正者伊藤時也
公開 / 更新2006-08-29 / 2014-09-18
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

    一

 トゥロットの別荘のうしろは、きれいな小さな砂浜になつてゐました。今トゥロットは、そこへ下りてあすんでゐます。そこへは村の人なぞはめつたに来ません。ですから、海のきはへさへ出なければ、一人でそこであすんでもいゝと、おゆるしが出てゐるのでした。
 でも、お庭には、ちやんと女中のジャンヌがこしをかけて、見ないやうなふりをして、ちよいちよい、こつちをみてゐます。
 トゥロットは、シャベルで大きな穴をほり、その砂をつみ上げて大きなお山をこしらへました。海の中につかつてゐる、そつちこつちの大岩や、砂の上に眠つてゐる、いろんな岩にもまけないやうな、大きなお山が出来ました。
「お坊ちやま、早くいらつしやいまし。お三時でございますよ。」
 トゥロットは斜面をかけ上つて、ジャンヌのお手からチョコレイトを一きれと、三日月パンを一つうけとると、またお山の方へもどつて来ました。立つたまゝ食べるのはおつくうなので、お山をひぢかけいすにしてしまつて、その上へ、どつかとこしをかけて、穴の中へ足を入れこみました。そして、チョコレイトを、ちよつぴりづゝ、かじりはじめました。すこうしづゝかじり/\して、もようみたいにこはしていくのがたのしみなのです。それは、とてもおもしろいのです。
「おや、何だらう。」
 トゥロットのまんまへに、ふいに影がさしました。顔を上げて見ますと、いつの間にか小さな男の子が来てゐます。いやにきたならしい子で、とてもくさくつてたまらなささうな、ぼろ/\の服を着てゐます。顔もまつ黒、両手もまつ黒で、鼻の下のところがへんに赤くなつてゐます。トゥロットはシャベルをふり上げて、
「あつちへおいで。」と、おどしつけました。男の子は片ひぢを目の上へあげて、三足あとすざりをしましたが、そのまゝトゥロットのまん前にすわりこんで、トゥロットの方をじろ/\見てゐます。トゥロットもその子を見つめながら、ちびり/\チョコレイトを食べつゞけました。
 ふゝん、この子の女中は、まいあさこの子を頭から足のさきまでシャボンで洗つたりしないんだから、いゝね。ぼくはいやな目をさせられて損だ。でもぼくは貴族のうちの子で、もう大きな子なんだから、ちやんと洗つてもらはなければいけない。洗はれるのはいやだけれど、きれいになるのはいゝ気もちだのに、この子はなんてぶざまなんだらう。
「ほんとに、きたないね、きみは。」
 かういふと、子どもは、ちよいと、目をうつぶせましたが、ぢきまた上げて、へんじもしないで、うすのろのやうににた/\笑ひながら、片方の手で砂をにぎつては、やみまなしに、片方の手の平へうつし/\してゐます。でも、たいしておもしろさうなけはひもなく、目では、じつと、トゥロットが三日月パンをもう少しで食べてしまひかけるのを見つめてゐるのです。
 トゥロットはその子の目のおちるところを見て見ました。じ…

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