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てがみ
てがみ
著者
翻訳者鈴木 三重吉
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本児童文学大系 第一〇巻」 ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日
初出「赤い鳥」1931(昭和6)年12月
入力者tatsuki
校正者浅原庸子
公開 / 更新2005-08-30 / 2014-09-18
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 ユウコフは年はまだやつと九つです。せんには、お母さんと一しよに、ゐなかの村のマカリッチさまといふ、だんなのうちにおいてもらつてゐました。お母さんはそのうちの女中になつて、はたらいてゐたのです。そのお母さんが死んでしまつたので、ユウコフもそのお家にゐられなくなり、人の世話で、三月まへから、この靴屋の店へ、奉公にはいつたのでした。
 こよひはクリスマスの晩です。ユウコフは親方や兄弟子たちが、教会からかへつてくるまでは、どんなにおそくまでも、ねむらないで、まつてゐなければならないのです。ユウコフは一人ぼつちで、さびしくてたまらないので、戸だなから、そつと親方のインキつぼをもちだして、さきのさゝくれたペンで、しわくちやの紙へてがみをかきだしました。だれよりも大すきな、あのマカリッチのだんなへ出さうとおもひついたのです。
「コンスタンチン、マカリッチのだんなさま。」とユウコフは、くびをひねり/\かき出しました。
「だんなさまのところは、クリスマスでにぎやかでせう。神さまが、だんなさまに、どつさりいゝことを下さるやうにいのつてます。だつて、わたしには、お父つあんもお母さんもゐなくなつたから、あとは、たゞだんなさまだけです。」
 ユウコフはこゝまでかくと、目をあげて、くらい窓を見上げました。ろうそくの、くらいあかりが、ガラスにぼんやりうつッてゐます。それをじつとみてゐると、マカリッチのだんなの姿が、ありありとガラスの中にうかび上つて来ました。
 マカリッチのだんなは、年は六十五です。せいのひくい、やせた、それでゐてとても元気なおぢいさまです。いつもたのしさうににこ/\してばかりゐます。昼間は台所にねころんで、料理人をからかつたりしてゐますが、夜になると、大きな羊の毛皮の外とうにくるまつて、家畜の見まはりに出ていきます。だんなのうしろには、いつも、カシュタンカとエールといふ、二ひきの犬がついてゐます。
 今だんなはどうしてゐるかしらとユウコフは思ひました。村の教会の窓はあか/\とかゞやいてゐるでせう。だんなはうちの門のところに、フエルトの靴をばた/\させながら立つてゐて、女中たちをわらはせてゐるかもしれません。
「どうだい、一つかゞねえか。」
 だんなは、かぎ煙草の箱を女中にわたします。女中はうけとつてかいでみて、とてもうれしがつて、はッはと笑ふのでした。
「くさいだらう。あとで鼻の先をよくふくんだぞ。――おゝお、ひどく、いてつくぢやねえか。みしみし氷りつくやうだ。」
 それから、だんなは、かぎ煙草を犬にもかゞせます。カシュタンカは、鼻をクン/\ならして、にげだします。エールはむやみに尻尾をふつて、かゞせないでくれといふやうにおせじをつかひます。
 夜の空は、ふかく水色にはれて、村全たいがはつきりとうかび上つてゐます。まつ白に雪をかぶつた屋根や、煙をはいてゐる煙突やしもで…

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