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そり(童話)
そり(どうわ)
作品ID45197
著者チリコフ オイゲン
翻訳者鈴木 三重吉
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本児童文学大系 第一〇巻」 ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日
初出「赤い鳥」1932(昭和7)年1月~2月
入力者tatsuki
校正者noriko saito
公開 / 更新2007-12-12 / 2014-09-21
長さの目安約 17 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

    一

 はてもない雪の野原を、二頭だてのそりが一だい、のろ/\と動いてゐました。そりにつけた鈴が、さびしい音をたてました。まつ白にこほりついた、ぼろござをきせられた馬は、にえたつた湯気のやうな息を、ひゆう/\はきつゞけました。
 ぎよ車台には、こちらの村の百姓の子で、今年十三になるリカがすわつてゐます。お父つァんの古帽子をかぶつて来たのはいゝけれど、とてもづば/\で、ちよいとでもうつ向くと、ぽこりと、鼻の上までずりおちて来ます。リカは、それを、あらつぽくおし上げながら、
「ほい、ちきしよう。うすのろめ。はやくあるかねえか。ほい。」と、馬をどなり/\しました。
 そりの中には、冬休みで田舎の家へかへつていく、中学二年生のコーリヤが、からだへ外とうや、ふとんをまきつけて、のつてゐます。北風は、ものすごいうなりをたてゝ、ふきまくり、リカの鼻をつねつたり、コーリヤの外とうをつきとほして、氷のやうな息をふきかけたり、指をこち/\にして、動かなくしてしまふかと思ふと、こんどは、ぞつと、くびすぢをなめまはしたりします。リカの靴は、まつ白にこほりついてゐます。帽子の下からのぞき出してゐる髪の毛は、まるで年よりの髪のやうに灰色になつてゐます。
「リカ。」
 中学生のコーリヤはたまらなくなつて、どなりました。
「なにかもつと着せてくれよ。寒くつて寒くつてたまらないよ。」
「なんだつて? 寒い? ちよッ。」
 リカは、かういひ/\、ぎよ車台からとびおりて、帽子をおしあげながら、そりのはうへいきました。そして、大きな手袋をはめた手で、コーリヤのかけてゐる毛布をなほしはじめました。
「おや、ふるえてるな。」
 リカはからかふやうにいひました。
「どうしたの? こゞえちやつたんかね。鼻をほら、鼻をかくさないかよ。家へいくまでに鼻がなくなつちまふよ。みなさい、まあ、なんておまいさまの鼻、赤くなつてんだ。」
「なんだい。鼻なんかどうだつていゝぢやないか、はやくやれよ。」
 そこで、リカは、じぶんの鼻をこすつて、手袋をはめて、また、ぎよ車台にとびのりました。
「どう/\/\、ちきしよう。」
 リカは、長いむちを力一ぱいふりまはしました。そりは、ぎし/\きしみながら、又うごき出しました。
 コーリヤは、ぢつとちゞこまつて、身動き一つしませんでした。ちよつとでも動くと、北風は、どこかしらあたらしい入口をみつけて、ふきこんで来るからです。しかし、コーリヤの心の中は、だんだんにあたゝかいよろこびにみちあふれて来ました。コーリヤはこのそりが、じぶんのうちの大きな門のまへについたときのことを、心にゑがいてみました。
 そりがつけば、窓には弟たちの頭がちらちら見え出して、小さい手で窓硝子をたゝいてゐるのがきこゑて来ます。家中のものがみんな、げんかんへかけ出し、戸が、ばた/\とあくかと思ふと、ぢいや…

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