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かぶと虫
かぶとむし
作品ID45213
著者新美 南吉
文字遣い新字新仮名
底本 「童話集 ごんぎつね|最後の胡弓ひき ほか十四編」 講談社文庫、講談社
1972(昭和47)年2月15日
入力者土屋隆
校正者noriko saito
公開 / 更新2005-07-31 / 2014-09-18
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

         一

 お花畑から、大きな虫が一ぴき、ぶうんと空にのぼりはじめました。
 からだが重いのか、ゆっくりのぼりはじめました。
 地面から一メートルぐらいのぼると、横に飛びはじめました。
 やはり、からだが重いので、ゆっくりいきます。うまやの角の方へ、のろのろといきます。
 見ていた小さい太郎は、縁側からとびおりました。そして、はだしのまま、ふるいを持って追っかけていきました。
 うまやの角をすぎて、お花畑から、麦畑へあがる草の土手の上で、虫をふせました。
 とってみると、かぶと虫でした。
「ああ、かぶと虫だ。かぶと虫とった。」
 と、小さい太郎はいいました。けれど、だれも、なんともこたえませんでした。小さい太郎は、兄弟がなくてひとりぼっちだったからです。ひとりぼっちということは、こんなとき、たいへんつまらないと思います。
 小さい太郎は、縁側にもどってきました。そしておばあさんに、
「おばあさん、かぶと虫とった。」
 と、見せました。
 縁側にすわって、いねむりしていたおばあさんは、目をあいてかぶと虫を見ると、
「なんだ、がにかや。」
 といって、また目をとじてしまいました。
「ちがう、かぶと虫だ。」
 と、小さい太郎は、口をとがらしていいましたが、おばあさんには、かぶと虫だろうががにだろうが、かまわないらしく、ふんふん、むにゃむにゃといって、ふたたび目をひらこうとしませんでした。
 小さい太郎は、おばあさんのひざから糸切れをとって、かぶと虫のうしろの足をしばりました。そして、縁板の上を歩かせました。
 かぶと虫は、牛のようによちよちと歩きました。小さい太郎が糸のはしをおさえると、前へ進めなくて、カリカリと縁板をかきました。
 しばらくそんなことをしていましたが、小さい太郎はつまらなくなってきました。きっと、かぶと虫には、おもしろい遊び方があるのです。だれか、きっとそれを知っているのです。

         二

 そこで、小さい太郎は、大頭に麦わらぼうしをかむり、かぶと虫を糸のはしにぶらさげて、門口を出ていきました。
 昼は、たいそうしずかで、どこかでむしろをはたく音がしているだけでした。
 小さい太郎は、いちばんはじめに、いちばん近くの、くわ畑の中の金平ちゃんの家へいきました。金平ちゃんの家には、しちめんちょうを二わかっていて、どうかすると、庭に出してあることがありました。小さい太郎はそれがこわいので、庭まではいっていかないで、いけがきのこちらから中をのぞきながら、
「金平ちゃん、金平ちゃん。」
 と、小さい声でよびました。金平ちゃんにだけ聞こえればよかったからです。しちめんちょうにまで、聞こえなくてもよかったからです。
 なかなか金平ちゃんに聞こえないので、小さい太郎は、なんどもくりかえしてよばねばなりませんでした。
 そのうちに、とう…

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