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センチメンタル・ドライヴ
センチメンタル・ドライヴ
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「牧野信一全集第三巻」 筑摩書房
2002(平成14)年5月20日
初出「文章倶楽部 第十四巻第四号」新潮社、1929(昭和4)年4月1日
入力者宮元淳一
校正者門田裕志
公開 / 更新2010-08-26 / 2014-09-21
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

「弾け! 弾け! その手風琴で沢山だ。」
「南北戦争の兵隊でもが持つやうな手風琴だな、ハツハツハ! 横ツ腹が大分破れてゐるぢやないか!」
「お前の胸には打つてつけだらうG――」
「失敬な、弾かねえぞ!」
「弾け! 弾け! リング、リング・ド・バンジョウ! あんなものを弾くにはそれで沢山だよ、K! お前は一緒にハモニカを吹け!」
「オーライ!」
「ぢや、俺もオーライとしよう!」
 Gの言葉だけが隣りの部屋で、たゞぼんやりしてゐる僕の耳に、Gのだ! と解るのであつた、何といふ
わけもなしに――。
「歌はう!」
「踊らう!」
「プロージッド!」
 水を飲んで、あの騒ぎだ! と僕は思つた。何がそんなに面白いんだらう! 一体何に彼等は、あんなに浮れてゐるんだらう!
「あきれたカレッヂ・ネキタイ達よ!」
 ――「Gの手風琴は厭に間のびがしてゐて、やつぱりいけないな。Gの奴、大分今夜は何うかしてゐるね。」
「…………」
「あの音楽係は免職にして、蓄音機にしよう!」
「そしてGも一緒に踊れ!」
「うむ、踊りの方が俺も好い。その代りあんまり俺の側へ寄るなよ。」
「たしかにメートルが狂つてゐるぞ!」
「喋舌るな/\? さあ始めろ! あの滅茶苦茶に賑やかな when you are alone あの Fox-trot!」
「レデイ!」
 大変な騒ぎだ! と僕は思つた。窓に月の光りが射してゐた。

 決して不愉快ではなかつたが僕は、頭がガンガンしてしまつたので、ひとりで散歩に出かけた。
 いつの間にか海辺まで来てしまつた。
 あの時誰かゞ云つた、あの滅茶苦茶に賑やかな when you are alone――その言葉が私の頭に妙に残つてゐた。
「お前がたつたひとりの時に――なんて云ふ題目の音楽が、滅茶苦茶に賑やかだ! なんて可笑しいな!」
 いつも大変常識的な、勿論音楽のことなどは何も知らない僕は、馬鹿々々しさうに呟いた。
 たつた一人の時なら静かに違ひないぢやないか、たつた一人で賑やかならば気狂ひだ、つまらぬ音譜があつたものだ!
 景色などにあまり心を奪はれた験しのない僕なのだが、吾家に帰つたつてあの騒ぎではたまらないし、まあ、もう暫く散歩でもして行かうか? などゝ思ひながら、ぶら/\と渚近くを歩いていると、さすがに月の夜は美しかつた。
 そして、いつの間にか大変遠くまで歩いて来てしまつたのに気づいた。――僕は、小舟に凭れて、珍しくも沁々と月を眺めたりした。夜も大分更けたと見えて、ふと足もとを見ると自分の影が恰でベルモットの壜のやうに細長く倒れてゐた。余程眼を凝しても、何処が頭で何処が肩のあたりか、さつぱり見当もつかない全くの壜だつた。
 影を見て、僕は、歩いて見た。するとまあ何と可笑しなことには、僕の二本のズボンの脚は、夫々一丈程の長さもあらうか! 最も痩つぽちな大人国の住人だ…

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