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南極の怪事
なんきょくのかいじ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「日本SF古典集成〔Ⅰ〕」 早川書房
1977(昭和52)年7月15日
初出「中学世界」1905(明治38)年1月号
入力者田中哲郎
校正者山本弘子
公開 / 更新2009-05-29 / 2014-09-21
長さの目安約 33 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

      一

 この怪異なる物語をなすにつき、読者諸君にあらかじめ記憶してもらわねばならぬ二つの事がある。その一は近頃ヨーロッパのある学者仲間で、地球の果に何か秘密でも見出さんとするごとく、幾度の失敗にも懲りず、しきりに南極探検船を出しておる事。その二は、いわゆる歴史の黒幕に蔽われたる太古、ぼうとして知るべからざる時代に、今は蛮地と云わるるアフリカ州の西岸、東に限りなき大沙漠を見渡すチュス付近に、古代の文明を集めたる一王国があって、その名は瑠璃岸国と口碑に伝えられているが、この国の最も盛んなりし頃、一人の好奇なる国王あり、何か物に感じたことでもあったものと見え、あるとき国中の材木を集めて驚くべき巨船を造り、船内の構造をすべて宮殿のごとく華麗にし、それに古代のあらゆる珍宝貨財と、百人の勇士と百人の美人とを乗せ、世界の諸国を経めぐらんとその国の港を出帆した。しかるにその船が南太平洋の波濤にもまれているうち、大暴風にでも遭ったものか、それとも海賊に襲われたものか、まったく行方不明になって、南太平洋の波濤は黙して語らず。
「どこにどうなってしまったか」という疑問が、数千年過ぎた今なお残っているという事。この二つの事――すなわち現時ヨーロッパのある学者仲間が、しきりに南極探検船を出しておる事と、古代文明国の一巨船が、永久の疑問を残して行方不明になった事とは、表面の観察では何等の関係もないようだ、イヤこうあらためて書けば、なんだか関係のあるように思う人があろうが、考えてみたまえ、数千年以前の物は、石の柱でも今は全く壊れてしまったほどだ、いわんや木で造った巨船においておやだ、好奇な学者先生いかに探しまわっても、いまさらそのような物の見つかる道理はあるまい。
 しかしこの世のなかには理外の理がある、次の物語を読んだ諸君は、さてもこの世のなかには、そのような秘密――そのような不思議なことがあるかと、眼をまるくして驚くだろう。


      二

 頃はポルトガル第一の科学者モンテス博士の南極探検船が、ある夜秘密にセントウベス湾を出発した、二カ月ほど以前の事である。あまり人の行かぬデルハ岬の海岸に、二人の奇麗な娘が遊んでおった、二人ともモンテス博士の愛嬢で、景色よき岬の上には博士の別荘があるのだ。
 二人の娘は楽しそうに、波打際を徘徊しながら、蟹を追い貝を拾うに余念もなかったが、しばらくして姉娘は急に叫んだ。
「あら! 妙なものが流れてきてよ」
 妹娘もその声に驚き、二人肩と肩とを並べて見ていると、今しも打ち寄せる波にもまれて、足許にコロコロと転んできたのは、一個の真黒なビールの空瓶だ。
「おや、こんな物、仕方がないわ」と、姉娘は織指に摘まみあげて、ポンと海中に投げ込んだが、空瓶はふたたび打ち寄せる波にもまれて、すぐまた足許にコロコロと転んできた。
「本当に執拗い空瓶だこ…

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