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サクラの花びら
サクラのはなびら
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「牧野信一全集第六巻」 筑摩書房
2003(平成15)年5月10日
初出「日本評論 第十一巻第七号」日本評論社、1936(昭和11)年7月1日
入力者宮元淳一
校正者門田裕志
公開 / 更新2010-12-04 / 2014-09-21
長さの目安約 51 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



 テオドル・ルーズベルトが、一九〇二年に大統領の覇権を獲得して、九年までの二期、その前後に於けるW・マツキンレイ及びW・H・タフト――彼等三者の数年間にわたる激しい争覇戦は、北米政戦史の花吹雪と謳はれて、今尚機会のあるごとに多くの人々に噂をのこしてゐるものであるが、――丁度その時代に恰もそれらの三代表の鼎立に伴れて、ワシントン、フイラデルヒア、ハーバードの三大学蹴球争覇戦が、中部地方の人気を弥が上にも湧き立てたといふはなしは、無論そんなお祭り騒ぎの出来事は、夢のやうに消え去つて、おそらくは世界運動史にも残つてはゐないのである。何故なら、それらの試合は全く時の三大統領の政戦に附随したもので、源はと云へば、覇者を讚へるための「大学祭り」に過ぎなかつたのである。ペンシルバニア地方を代表したフイラデルフイア大学はタフトを、ニユーハンプシヤイア地方からのハーバード大学はマツキンレイを、そしてメリーランド地方としてはワシントン大学がルーズベルトを支持した。新しい年の冬に挙行される、この吉例の試合には、云ふまでもなく、時の大統領が臨席して手づから勝盃を贈るのが慣例だつた。
 マツキンレイ大統領の任期には、「W」大学と「P」大学が、ハーバードに迫り、ルーズベルトの任期には「H」と「P」がワシントンを敵と構へ、タフトの任期には「W」と「H」がフイラデルフイアを陥入れんといきまくといふが如き勢ひで、終ひにはそれらの勝敗がプレジデントの人気にさへも影響しようといふ理不尽なる風が吹きまくつた。
「W」大学が「P」を一蹴して、ハーバードを一八九八年、九年と続けて撃破した折などは、勝盃を贈らうとするマツキンレイ大統領の腕が悲しみに震えてゐた、あれが次の総選挙に際しての敗戦の陰影をつくつた――といふやうな噂が飛んだ位ゐであつた。
 この物語の発端は一九〇四年の秋、ポートマク河畔の合宿に屯した「W」大学の選手連の風景から一挿話を取らなければならない。彼等は前年の冬にはハーバードを破り、フイラデルヒアに迫つて惜しくも破れた。更に前々年は脆くも大敗の憂目を嘗めてゐた。――大統領ルーズベルトは、任期以来三年も続けて「H」と「P」に「憂鬱なる勝盃」を授与してゐた。
あかつきの空にひゞきて自由なる
鐘は鳴りて
ポートマク河の誉れの夢よ
われら青春の永久なる勝利
……
 これは新たにつくられた「W」大の応援歌の一節であるが、その大意は白堊館の秘書課から合宿所宛に送られた激励文に従つて、作詞されたものといふ噂であつたが、彼等にとつては寧ろ皮肉の痛手を覚えずには居られなかつた。
「吾等万一今回の試合に敗れたるあかつきは翌年度の出場権をコロンビア大学に譲渡の止むなき絶壁に瀕せるなり。夢に想像するだに悲憤の極みならずや。吾等一党はアラスカを放浪せんよりも、命の片々をポートマク河の吹雪と希ひしが本来の誓ひ…

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