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ダニューヴの花嫁
ダニューヴのはなよめ
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「牧野信一全集第四巻」 筑摩書房
2002(平成14)年6月20日
初出「日本国民」日本国民社、1932(昭和7)年8月1日
入力者宮元淳一
校正者門田裕志
公開 / 更新2010-01-24 / 2016-05-09
長さの目安約 25 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

     一

 白雲は尽くる時無からん、白雲は尽くる時無からん……白雲は――。
 おゝ、あの歌はどこの人がうたつてゐるのであらう、何といふ朗々たる音声であらうよ、その声がそのまゝ雲のやうだ、あゝ、あゝ、あれを御覧、あれを御覧、雲が/\/\……。
 そんなに思つて、うつとりと口をあけてゐると、みるみるうちに青空はるかに棚引いてゐる白い雲が、ハラ/\と雪のやうに飛び散つて、降つて来る! 降つて来る! こんこんこんと飛び散つて来るかと思ふと、私の眼蓋の上に来て、ほとほとゝ愛らしい音を立てながら小鳥のやうに羽ばたくのであつた――それにしても、その羽ばたきの触感が、冷たくも何ともなくて更に更に甘い睡気を誘ふのであつた……。
「面白い/\!」
 と私は呟いだ。
 ――夢から醒めた。
 私は、河畔の葦の洲の上で、一方の腕をたくみに水の上にのばせてゐる茱萸の樹の枝から枝へ吊つたハムモツクで、うたゝ寝の夢に烏頂天となつてゐた。
「はははは……こゝまで来れば、例によつて先生の風琴の音が聞えるだらう、そいつに勢ひを得て一ト息に矢の倉までのしてしまはうと思つてゐたところが、ぐつすりとおやすみぢや仕方がないや……」
「誰にしたつて、この陽気ぢや眠くもならうと云ふものさ、なあ兄さん――未だ、じぶん時には少々早からうが、俺らも此処であつさりと弁当をつかはうぢやないか。」
「さうだ/\――よういとまけ/\……」
 ありのまゝの言葉づかひにしては、あまり間のびがしてゐて、恰度この河の流れのやうに悠長すぎるではないか――だから、それも私は、夢の中の歌ぢやないかな? といふやうな思ひにうとうととしてゐると、間もなくギイツといふ舵をまげる音がして、やがて舟は舫杙につながれた。そして雪太郎と雪二郎がのこのこと私の下に現れた。
「やはツ! やつぱり左うだつたのか……君達の話声が、あんまり朗らかなので、僕は夢の中で天狗と散歩をしてゐたんだが、そいつがそのまゝ天狗の声と響いてゐた。はつはつは……麗らかな天気ぢやな!」
 私は、吊床に腰をかけて二つ三つ大きく揺り動かせながら、それと同じやうに大きくわらつて、ばさりと兄弟の前に飛び降りた。そして、ひようきんさうに鼻高のシラノのやうな見得を切つて、胸をひろげた。
「そいつは、どうも――」
 兄弟は同時に肩をゆすつた。
「折角の素晴しい夢をお騒がせ申して、何とも、いやはや申しわけがありませんでしたな、あつはつは……」
「一処に登らうよ。斯んなところで弁当を喰ふのも張り合ひがないと云ふものだ。」
 云ひながら私は、二人の間を割つて夫々の肩に翼のやうに腕をかけて歩き出しながら、脚もとの田舟を指差した。
「矢の倉まで行かう、風琴は持ち合さなかつたが、舟歌は一手に引きうけたぞ、ヘツヴ・ハウ、ヘツヴ・ハウ My heartful......sky wearing my s…

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