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秋・二日の話
あき・ふつかのはなし
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「牧野信一全集第二巻」 筑摩書房
2002(平成14)年3月24日
初出「新潮 第四十二巻第一号」新潮社、1925(大正14)年1月1日
入力者宮元淳一
校正者門田裕志
公開 / 更新2010-03-26 / 2014-09-21
長さの目安約 15 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 綽名だけは一人前――悪党きどりの不良少年――母島村長の懇望から三十人をけふ島送り――。
 未だ十三や十四の身空でオートバイ、洋服、熊、ガタ倉、黒、トガワ、青坊主、ヤセ馬等といふ綽名を持ち、ひとかどの悪党きどりで浅草公園を中心に新公園、寺院墓地、雷門、川崎銀行裏、五重塔等に屯して、かつぱらひやすりを働く不良少年の群には、所轄署に於ても一方ならず手を焼いてゐるが、今回小笠原の母島から上京した同村長がこれ等の不良少年を名もなつかしき母島へ伴れて行つて砂糖栽培に従事させ、丁年までには真人間にして還したいといふ希望を齎したので不良少年保護所から所轄署に依頼し、所轄署では×日の午後十時を期して×警部補指揮の下に和服が総出となつて公園附近をかり立てた結果札付きの不良少年三十名を取り押へたがその中でも比較的年が若くて質の好くない左の十五名を小笠原へ送ることゝなり、×日横浜出帆の郵船××丸で村長が伴れて行つた、母島では各農家に分配して使傭する筈。――
 或る晩、私はそんなことを声をたて、朗読した。新聞の夕刊記事である。別に、その記事が面白くて朗読したわけではない。私は、うつかり昼寝をして、眼を醒したら、もう夜だつた。
「散歩にでも行つていらつしやいな、ぼんやりしてゐないで。」などゝ周子にすゝめられたのだが、別に訪れる処もなし、漫然たる散歩は嫌ひなので出かける気がしなかつたのだ。ぼんやり椅子に胡坐をかいて跼つてゐたのである。――そんな朗読でもしたら、いくらか眼醒しになるかと思つて、夕刊を拡げていきなり眼に付いたところを読みあげたのだ。
「随分いろんな綽名があるんですね。」
 周子は、私の機嫌を取るやうに云つた。
「お前にも綽名をつけてやらうか。」
 私は、ふざけてそんなことを云つた。それには返答しないで彼女は、
「あなたは子供の時分綽名をつけられたことがある?」と訊ねた。
「無いな。」
 私は、一寸回想して見たが思ひあたらなかつた。「お前はあつたらう?」
「ありませんよ。」
「いやありさうな顔だ。」
「自分こそ!」
「ヒデヲは今に綽名をつけられるかしら。」
「不良少年だけよ、そんなことは――」
 周子は、厭な顔をして横を向いた。
 静かな晩だつた。私の一人の子である三才のHが、独りで切りに噪ぎ廻つてゐるより他には、あたりには何の音もなかつた。食膳の上に小道具を並べておくと、Hが乱暴で直ぐに破壊してしまふので、Hに手のとゞかない高さの安物の丸テーブルを備へて、私はそこで酒を飲んだり食事をしたりしてゐた。尤も、もう一つ理由があつた。一ト月程前に借りた家なのだが、畳が大分汚くて、坐るのが厭だつた。私は、吝嗇で畳換へをしようともせず、だが、さうとは云はず友達等が来ても体裁をつくつて、
「椅子テーブルの方が、具合が好い、だんだんに生活を洋風にしようと思つてゐるんだ。」などゝ云つてゐた。…

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