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みじかい木ぺん
みじかいきぺん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「イーハトーボ農学校の春」 角川文庫、角川書店
1996(平成8)年3月25日
入力者ゆうき
校正者noriko saito
公開 / 更新2009-09-21 / 2014-09-21
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



キッコの村の学校にはたまりがありませんでしたから雨がふるとみんなは教室で遊びました。ですから教室はあの水車小屋みたいな古臭い寒天のような教室でした。みんなは胆取りと巡査にわかれてあばれています。
「遁げだ、遁げだ、押えろ押えろ。」「わぁい、指噛じるこなしだでぁ。」
がやがやがたがた。
ところがキッコは席も一番前のはじで胆取りにしてはあんまり小さく巡査にも弱かったものですからその中にはいりませんでした。机に座って下を向いて唇を噛んでにかにか笑いながらしきりに何か書いているようでした。
キッコの手は霜やけで赤くふくれていました。五月になってもまだなおらなかったのです。右手のほうのせなかにはあんまり泣いて潰れてしまった馬の目玉のような赤い円いかたがついていました。
キッコは一寸ばかりの鉛筆を一生けん命にぎってひとりでにかにかわらいながら8の字を横にたくさん書いていたのです。(めがね、めがね、めがねの横めがね、めがねパン、[#挿絵]くさりのめがね、[#挿絵])ところがみんなはずいぶんひどくはねあるきました。キッコの机はたびたび誰かにぶっつかられて暗礁に乗りあげた船のようにがたっとゆれました。そのたびにキッコの8の字は変な洋傘の柄のように変ったりしました。それでもやっぱりキッコはにかにか笑って書いていました。
「キッコ、汝の木ペン見せろ。」にわかに巡査の慶助が来てキッコの鉛筆をとってしまいました。「見なくてもい、よごせ。」キッコは立ちあがりましたけれども慶助はせいの高いやつでそれに牛若丸のようにうしろの机の上にはねあがってしまいましたからキッコは手がとどきませんでした。「ほ、この木ペン、この木ペン。」慶助はいかにもおかしそうに顔をまっかにして笑って自分の眼の前でうごかしていました。「よごせ慶助わあい。」キッコは一生けん命のびあがって慶助の手をおろそうとしましたが慶助はそれをはなして一つうしろの机ににげてしまいました。そして「いがキッコこの木ペン耳さ入るじゃぃ。」と云いながらほんとうにキッコの鉛筆を耳に入れてしまったようでした。キッコは泣いて追いかけましたけれども慶助はもうひらっと廊下へ出てそれからどこかへかくれてしまいました。キッコはすっかり気持をわるくしてだまって窓へ行って顔を出して雨だれを見ていました。そのうち授業のかねがなって慶助は教室に帰って来遠くからキッコをちらっとみましたが、またどこかであばれて来たとみえて鉛筆のことなどは忘れてしまったという風に顔をまっかにしてふうふう息をついていました。
「わあい、慶助、木ペン返せじゃ。」キッコは叫びました。「知らなぃじゃ、うなの机さ投げてたじゃ。」慶助は云いました。キッコはかがんで机のまわりをさがしましたがありませんでした。そのうちに先生が入って来ました。
「三郎、この時間うな木ペン使ってがら、おれさ貸せな。」キ…

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