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ガドルフの百合
ガドルフのゆり
作品ID455
著者宮沢 賢治
文字遣い新字新仮名
底本 「風の又三郎」 角川文庫、角川書店
1996(平成8)年6月25日改訂新版
入力者浜野智
校正者浜野智
公開 / 更新1999-02-05 / 2023-07-08
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

[表記について]
●底本に従い、ルビは小学校1・2年の学習配当漢字を除き、すべての漢字につけた。ただし、本テキスト中では、初出のみにつける方法とした。
●ルビは「」の形式で処理した。
●ルビのない熟語(漢字)にルビのある熟語(漢字)が続く場合は、「|」の区切り線を入れた。
●[※1〜6]は、入力者の補注を示す。注はファイルの末尾にまとめた。
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 ハックニー馬[※1]のしっぽのような、巫戯けた楊の並木と陶製の白い空との下を、みじめな旅のガドルフは、力いっぱい、朝からつづけて歩いておりました。
 それにただ十六哩だという次の町が、まだ一向見えても来なければ、けはいもしませんでした。
(楊がまっ青に光ったり、ブリキの葉に変ったり、どこまで人をばかにするのだ。殊にその青いときは、まるで砒素をつかった下等の顔料[※2]のおもちゃじゃないか。)
 ガドルフはこんなことを考えながら、ぶりぶり憤って歩きました。
 それに俄かに雲が重くなったのです。
(卑しいニッケルの粉だ。淫らな光だ。)
 その雲のどこからか、雷の一切れらしいものが、がたっと引きちぎったような音をたてました。
(街道のはずれが変に白くなる。あそこを人がやって来る。いややって来ない。あすこを犬がよこぎった。いやよこぎらない。畜生。)
 ガドルフは、力いっぱい足を延ばしながら思いました。
 そして間もなく、雨と黄昏とがいっしょに襲いかかったのです。
 実にはげしい雷雨になりました。いなびかりは、まるでこんな憐れな旅のものなどを漂白してしまいそう、並木の青い葉がむしゃくしゃにむしられて、雨のつぶと一緒に堅いみちを叩き、枝までがガリガリ引き裂かれて降りかかりました。
(もうすっかり法則がこわれた。何もかもめちゃくちゃだ。これで、も一度きちんと空がみがかれて、星座がめぐることなどはまあ夢だ。夢でなけぁ霧だ。みずけむりさ。)
 ガドルフはあらんかぎりすねを延ばしてあるきながら、並木のずうっと向うの方のぼんやり白い水明りを見ました。
(あすこはさっき曖昧な犬の居たとこだ。あすこが少ぅしおれのたよりになるだけだ。)
 けれども間もなく全くの夜になりました。空のあっちでもこっちでも、雷が素敵に大きな咆哮をやり、電光のせわしいことはまるで夜の大空の意識の明滅のようでした。
 道はまるっきりコンクリート製の小川のようになってしまって、もう二十分と続けて歩けそうにもありませんでした。
 その稲光りのそらぞらしい明りの中で、ガドルフは巨きなまっ黒な家が、道の左側に建っているのを見ました。
(この屋根は稜が五角で大きな黒電気石[※3]の頭のようだ。その黒いことは寒天だ。その寒天の中へ俺ははいる。)
 ガド…

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