えあ草紙・青空図書館 - 作品カード


広告

天井裏の妖婆
てんじょううらのようば
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「伝奇ノ匣6 田中貢太郎日本怪談事典」 学研M文庫、学習研究社
2003(平成15)年10月22日
入力者Hiroshi_O
校正者noriko saito
公開 / 更新2010-11-26 / 2014-09-21
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)
えあ草紙で読む
HTMLページで読む

広告

find Kindle 楽天Kobo Playブックス

find Audible YouTube

本の感想を書き込もう web本棚サービスブクログ作品レビュー

青空文庫の図書カードを開く

find えあ草紙・青空図書館に戻る

楽天Koboで表紙を検索

広告

本文より


 鏑木清方画伯の夫人が産褥熱で入院した時の話である。
 その夫人が入院した時は夜で、しかもひどく遅かった。夫人はその時吊台で病院に運ばれたが、その途中吊台の被の隙から外の方を見ると、寒詣りらしい白衣の一面に卍を書いた行者らしい男が、手にした提灯をぶらぶらさせながら後になり前になりして歩いていた。そして、目的の病院へ著いたが、玄関の扉が締っているので、しかたなく死体を出入する非常口から入った。
 それから二三日してのことであった。夜半比、何かのひょうしに眼を覚ました夫人が、やるともなしに天井の方へ眼をやったところで、そこに小紋の衣服を著て髪をふり乱した老婆がいて、それが折釘のような頸をさしのべて夫人の顔をぎろりと見た。夫人はびっくりしたが、すぐ、かかる際に取るべき伝説に気が注いた。
(此奴に負けてはたいへんだ)
 と思ったので、きっと唇を噛んで老婆の顔を睨みかえしたが、一所懸命であるから数瞬もしなかった。と、老婆が忌いましそうに舌打ちをして、
「おまえさんは、剛情な女だね」
 と云ったかと思うと、後すさりして隅の方へ往くなり、消えて見えなくなった。そこへどたどた跫音がして、受持の看護婦が飛びこんで来たが、看護婦は呼吸をはずませながら、
「何か変ったことはありませんでしたか」
 と云った。夫人が、
「べつに、なにも」
 と云うと、看護婦ははじめてほっとしたような顔をして、
「今、奥さんの室から何人か出て往ったような気配がしますから、不思議に思ってますと、この次の次の病室にいる患者さんが、ふいに天井へ指をさして、何か来た、何か来たと云いながら、呼吸を引きとりました」
 と云った。それを聞くと気丈な夫人も思わずぞっとした。



えあ草紙で読む

ライフメディアへ登録

Koboユーザー必見!
楽天スーパーポイントとは別に
価格の5%がポイントに!

find えあ草紙・青空図書館に戻る

© 2016 Sato Kazuhiko