えあ草紙・青空図書館 - 作品カード

作品カード検索("探偵小説"、"魯山人 雑煮"…)

楽天Kobo表紙検索

疫病神
やくびょうがみ
作品ID45539
著者田中 貢太郎
文字遣い新字新仮名
底本 「伝奇ノ匣6 田中貢太郎日本怪談事典」 学研M文庫、学習研究社
2003(平成15)年10月22日
入力者Hiroshi_O
校正者noriko saito
公開 / 更新2010-11-19 / 2014-09-21
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

広告

えあ草紙で読む
▲ PC/スマホ/タブレット対応の無料縦書きリーダーです ▲

find 朗読を検索

本の感想を書き込もう web本棚サービスブクログ作品レビュー

find Kindle 楽天Kobo Playブックス

青空文庫の図書カードを開く

find えあ草紙・青空図書館に戻る

広告

本文より


 長谷川時雨女史の実験談であるが、女史が佃島にいた比、令妹の春子さんが腸チブスに罹って離屋の二階に寝ていたので、その枕頭につきっきりで看護していた。
 それは夜であったが、その時病人がうなされていた。女史は何の気なしに床の間の方へ眼をやった。そこの床の間の隅に十五六ぐらいの少年がいて、それが腕ぐみしてじっと蹲んでいたが、その髪の毛は焦げあがったようで、顔は細長い茄子の腐ったような顔であった。女史はびっくりしたが、かねて疫病神のことを聞いていたので、ここで負けては病人が死んでしまうと思って、下腹へぐっと力を入れてその少年を睨みつけた。すると、少年の姿が煙のように消えるとともに、うなされていた春子さんが夢から覚めたようになった。
 そのうちに春子さんの病気もすっかり癒ったので、女史は箱根へ出かけて往った。国府津で汽車をおりて、そこから電車で小田原へ往ったが、電車が小田原の幸町の停留場へ著いた時、何の気なしに窓の外を見ると、停留場の名を書いた大きな電柱に寄りかかって、ぼんやりと腕ぐみしている少年があった。それは彼の茄子の腐ったような顔色の少年であった。
 女史はそこでまた下腹へ力を入れてぐっと睨みつけた。と、少年の姿はまた消えてしまった。



えあ草紙で読む
find えあ草紙・青空図書館に戻る

© 2024 Sato Kazuhiko